With Their Boots.

ジョルジオ・キエッリーニへのインタビュー(Daily Mail)

00/01シーズンに故郷リヴォルノでプロデビューして以来、数々の賛美とトロフィーと生傷を負ってきたジョルジオ・キエッリーニも2018年の夏には34歳になります。勇猛果敢なプレイで仲間を鼓舞する情熱的なファイターとしての印象が強い彼ですが、経済学と経営学の学位を取得し数多くの慈善活動に参加するピッチ外での姿はあまり知られていないモノかもしれません。今回はDaily Mail電子版に掲載されていたキエッリーニのインタビューをざっくり訳しました。元記事はこちら


ジョルジオ・キエッリーニは、ユヴェントスでチームメイトだったアルバロ・モラタが彼とのトレーニングを「腹を空かしたゴリラと同じ檻に入れられて、エサをあげるようなもの」と評したことを聞いて思わず吹き出してしまった。

 

多くのストライカーもモラタと同様の考えだろう。キエッリーニは現在33歳。しかし、11月20日からの15試合でたったの1失点しかしていないユヴェントス守備陣の一員である。

 

無失点で過ごした試合時間は22時間を超え(2018年2月7日時点)、その間にはバルセロナインテル、ローマ、ナポリなどとの試合もあった。来週にはチャンピオンズリーグトッテナムと激突する。ハリー・ケインも様々な得点記録を打破してきたが、ユヴェントスの最終ラインを攻略できるかどうかは彼にとって重大なテストになるだろう。(結果は2戦合計4-3でユヴェントスの勝ち上がり)

 

キエッリーニはその中核をなす存在だ。伝統的なイタリア人ディフェンダーである彼は、ストリートファイトのメンタリティを備えた屈強な守備者である。

 

4度の鼻の怪我、キングコングのように胸を叩いてのゴールセレブレーション、ワールドカップではルイス・スアレスに肩を噛まれた。それでもキエッリーニは肩をすくめて「ノープロブレム」と言う。

 

f:id:dodonn_0704:20180322222335j:plain

[ゴールを守るためなら、たとえ怪我を負っていようとも体を張るのがキエッリーニの信条だ。]

 

「合計で4回も鼻を折りました。問題なのは僅かでも得点を決めたり失点を防いだりするチャンスがあったら、我慢できなくなっちゃうことですね」キエッリーニはにやりと笑いながら言った。

 

しかし、ピッチ上でのグラディエーターのような振る舞いは彼本来の姿を投影したものではない。キエッリーニは非常に奥深い存在で、彼と過ごした1時間あまりで彼がスポーツ界でも有数の学識深い思索家であることを思い知った。

 

フアン・マタが全世界のフットボール選手にコモン・ゴール(プロフットボール選手による慈善活動)への参加を呼び掛けたとき、キエッリーニはすぐに返答した。

 

キエッリーニがこういった活動に熱心なことは、イタリアではよく知られたことだ。故郷であるリヴォルノにある身体障害者を支援する劇場のサポートも行っているし、障害を持った子供達にスポーツをする機会を提供するInsuperabiliというチャリティ事業の共同設立者でもある。この事業も最初はトリノの街だけだったが、今ではイタリアの15の都市で活動している。

 

「フアン(・マタ)のインタビューを見て、マッツ・フンメルスが参加したことを知りました。私はまず彼らのウェブサイトにメッセージを送ったんですが、事務員は15歳くらいの子供によるイタズラだと思ったらしいです。だから、ビデオ通話をして自分が本当にキエッリーニだということを証明しなくちゃいけなかったんですよ!」

 

f:id:dodonn_0704:20180322222642j:plain

[フアン・マタの発案で始動したフットボール選手による慈善団体コモン・ゴール。キエッリーニフンメルス以外にもホッフェンハイムの監督であるナーゲルスマン、女子サッカー米国代表のラピノ、日本代表の香川真司らも参加している。]

 

「物事を変えられるかどうかは分かりません。でも、子供達を笑顔にしたいんです。それが実現できたときの感情は言葉では表せないでしょう。我々の役割とは尊敬される存在になることで、これはとても大切なことです。子供達は我々が言ったこと、やったこと全てを真似します。生まれた瞬間から人生が決まってしまっている子供達が実に多い。私は彼らに自分の力で人生を決めるパワーを与えたい。」

 

昨年、マタはフットボール界で高騰するコマーシャリズムと「馬鹿げたほどの」給料に伴う社会的な責任について語った。キエッリーニは経済学の学士と経営学修士を取得している。

 

キエッリーニは言う。「不安や心配という言葉を用いて我々が受けている豊かさを形容するのは間違っています。自らを犠牲にしてきましたが、これほど多くの給料を貰っていいとは考えたこともありません。ただ、自分が幸運だということは分かっています。だから、サポートを必要とする人のために使わなければいけないのです。」

 

「サポートはお金だけを指すわけではありません。短い映像でも、ちょっとしたメッセージでも、実際に訪問するのでもいいでしょう。とにかく気持ちを伝えることです。私はこれまで世界中を旅してきました。南アフリカやブラジルの最貧地域にも行きました。タイに泊まったときには、五つ星ホテルを出て角を一つ曲がった路上で寝ている人を見ました。とても貧しく、市場では地面に絨毯を敷いて寝ている人もいました。彼らは川で、雨水で衣服を洗っています。コモン・ゴールは国際的なムーブメントです。ここまでイタリア人は私だけですが、もっと広がることを願っています。」

 

故郷リヴォルノにいる旧友たちからは、メリアン・クーパー監督の映画に出てくるキングコングに例えられる。キエッリーニという男は気高き野人なのである。

 

「二重人格みたいなものですよ。ピッチ上ではトップレベルに辿り着くために、こういうスタイルが必要でした。私はテクニカルなスキルに恵まれた訳ではありませんから、練習して成長しなくてはなりませんでした。フィジカルやテクニックに恵まれた選手でも大成するのはごく僅かです。必要なのは情熱なのです。同年代の選手の中ですら、最高という評価を受けたことはありません。みにくいアヒルの子のような存在です。見ていて美しさを感じることは無いでしょうが、常に成長しています。成長できることこそが、私が持つ最高のスキルです。33歳になりましたが、毎シーズン自己最高を更新しています。そこに秘密なんてありません。とにかく情熱と努力あるのみです。」

 

情熱という言葉が出たことで、話題は前のユヴェントスとイタリア代表監督アントニオ・コンテに移った。

 

「イタリアン・パッションですよ。」そう言ってキエッリーニは息をついた。「試合中だけではありません。一日中ずっとです。全ての練習で彼は情熱に満ちていました。彼と過ごしたユヴェントスでの3年、イタリア代表での2年の間、彼がまとう雰囲気には特別なものを感じていました。」

 

f:id:dodonn_0704:20180322223233j:plain

[ユヴェントスとイタリア代表で共に栄光を目指したコンテ(写真右)とキエッリーニ。EURO2016では非常にソリッドな戦い方で優勝候補のスペインやベルギーを破った。]

 

「トレーニングが終わったときは、ほとんど死んだような状態でした。疲れたなんていうレベルじゃないんです。死です。こんなことが出来たのも、彼のすることを信頼できたからこそです。我々イタリア代表チームは(EURO2016のとき)フランスで40日間いっしょに過ごしましたが、別の世界に突入したみたいでした。彼が世界最高の監督のひとりであることは確かです。」

 

コンテがイタリア代表を離れてから、同代表は急速な下降線をたどった。キエッリーニもワールドカップを逃したチームの一員だった。

 

「正直に言って、(ワールドカップ期間中は)お腹を刺されたような感覚になるでしょうね。良いひと月を過ごせるとは言えないと思います。試合も少しは見るだろうし結果もチェックするでしょうけど、家で座ったままワールドカップをTV観戦するなんて想像できません。」

 

キエッリーニは、彼の同胞たちは基本に立ち返るべきだと主張する。ペップ・グアルディオラはイタリアのディフェンダーを壊してしまいました。彼は素晴らしいマインドを備えた素晴らしいコーチですが、イタリアの指導者は彼と同等の知識も持たずにコピーしようとしてきました。そして、この10年間で我々はアイデンティティを失ってしまったのです。」

 

f:id:dodonn_0704:20180322225113j:plain

[ワールドカップ出場を懸けたプレイオフスウェーデンに敗れたイタリア代表。]

 

「(パオロ・)マルディーニ、(フランコ・)バレージ、(ファビオ・)カンナヴァーロ、(アレッサンドロ・)ネスタ、(ジュゼッペ・)ベルゴミ、(クラウディオ・)ジェンティーレ、(ガエターノ・)シレア……今の我々が持っているのは(レオナルド・)ボヌッチだけです。この10年間でイタリアは良いディフェンダーを一人も輩出できていません。私が今望んでいるのは、イタリアサッカー界がリスタートを切り、イタリアのフットボールを再び発信することです。ワールドカップ(予選)での結果は、私達が抱える問題を証明したものです。」

 

しかしながら、ユヴェントスは依然として巨大なチームだ。マッシミリアーノ・アッレグリ率いるチームはここ3シーズンのチャンピオンズリーグで2度の決勝進出を果たした。セリエAも7連覇を目指し戦っている。

 

かつて、キエッリーニイングランドのクラブから移籍を打診されたこともあるし、マウリシオ・ポチェッティーノ率いる「エキサイティングな」トッテナムについて熱く語りもするが、「イタリアの人間にとって、ユヴェントスを去るときはユヴェントスから売りたく思われたときだけ」と語る。

 

ボヌッチ、(アンドレア・)バルザーリ、私、そしてジジ・ブッフォンが最後方にいたときのチームはスペシャルでした。技術的にどうとかという話ではなく、フィーリングや感情、経験のレベルで素晴らしかった。」

 

キエッリーニユヴェントスやイタリア代表が持っていた上昇志向に似た物をトッテナムからも感じているという。「強いチームですよ。(ヤン・)フェルトンゲンと(トビー・)アルデルヴァイレルトのベルギーコンビが好きです」と語ってくれた。

 

「ハリー・ケインはファンタスティックな選手です。彼とは3年前にも対戦しましたが、その頃から大きく成長しました。今や一年間でメッシよりも多くのゴールを挙げる選手です。キエッリーニより多くの得点を挙げるのとは違う次元の話ですね(笑)」

バロンドール受賞者を生み出すスポルティングCPのアカデミーってどんな場所?(The Guardian)

ポルトガル代表に多数の選手を送り込み、同代表のEURO制覇に大きな貢献を果たしたスポルティングCPのアカデミー。ルイス・フィーゴクリスティアーノ・ロナウドというバロンドール受賞者2名を始め、非常に多くの名選手を輩出したことでも知られています。世界でも高い評価を受けるスポルティングのアカデミーとはどんな場所なのか?をAlex Clapham氏が取材した記事がGuardianに掲載されていましたので、今回はその記事をざっくり訳しました。元記事はこちら。同氏によるベンフィカアカデミー取材記の翻訳はこちら


 

 

努力、ひたむきさ、献身、栄光。これらの単語は若い才能たちがスポルティングCPアカデミーの門を叩き、そして去るときに目にするものだ。アルコシーチの田舎にあるスポルティングのアカデミーは、私が以前に訪ねたベンフィカのアカデミーと大きく違った場所で驚かされた。0.4ユーロのコーヒーを終始しかめ面なおじさんが出してくれたくらいで、贅沢さは無く、まさにフットボールのための場所といった感じだ。

 

ポータブルTVの周囲に集まったコーチ達はプリメイラリーガ(ポルトガル1部リーグ)のハイライトを見て、今晩の練習予定を相談していた。私はというと、この廊下を過去に歩き、すぐ近くの部屋で眠っていたであろう選手達のことを想像せずにはいられなかった。スポルティングにはかつて、ポルトガル代表で最もキャップを重ねた二人の選手が所属していた。クリスティアーノ・ロナウドルイス・フィーゴだ。両者は共にバロンドールを受賞し、チャンピオンズリーグを勝ち取り、国内リーグとカップのタイトルの獲得数はおびただしい程だ。この施設内には二人の肖像画などがいたるところに掲示されている。

 

f:id:dodonn_0704:20180319225852j:plain

[数多くの名選手を輩出してきたスポルティングのアカデミーだが、フィーゴ(左)とロナウド(右)の存在は別格なのだという。]

 

このアカデミーでゴールキーパーコーディネーターとして働くミゲル・ミランダは言う。「メッシとは突然変異的な存在なんです。世代に一人しか生まれない選手で、史上最高のレベルです。しかし、クリスティアーノが現在のレベルに到達するまでに行ってきたことは、常人にとって大いに意味のあるものです。彼が離島からここに来たときは、何も持たない痩せた少年でした。良くない習慣も身についていましたし、相手ディフェンダーに突っかかることも多かった。しかし今では彼は完璧な選手、ビーストになりました。我々は彼をこのアカデミーにいる全ての選手にとっての模範として扱っています。彼は現在の地位に辿り着くまでに、あらゆることを犠牲にしてきたのです。」

 

6面あるピッチをミランダと話しながら見て回っている間、私はあることに気付いた。ボールが何度も何度もウィングの選手に素早く送られ、ウィングの彼らは対面のフルバックへドリブルを仕掛けるように促されている。クリスティアーノフィーゴ、ナニ、クアレスマ…。我々は常に特別なウィンガーを輩出してきました。コーチは中央の選手達にはタッチ数の制限を設けてサイドへボールを展開するよう指導しますが、ウィンガーにはタッチ数の制限は与えずチャンスを作るよう指導します。」ミランダは語ってくれた。彼が言うには、このアカデミーが持つ『管理された選手ではなく自由な選手を育てる』という歴史があるから、国内の優秀なウィンガー達がこぞってここにやってくるのだという。

 

「我々が輩出した選手のうち10人が2016年のEUROではポルトガル代表に入りました。そのうち8人は決勝戦のスタメンに名を連ね、うち5人がアタッカーです。さらにそのうち2人はウィンガーとして出場しました。私達は選手がピッチ上に自由に自分自身を表現することを好みます。クリエイティブな少年が大好きです。」

 

f:id:dodonn_0704:20180319232225j:plain

[EURO2016決勝に臨んだポルトガル代表の選手達。赤い円で囲んだ選手は全てスポルティングのアカデミー出身者。さらに、交代出場したリカルド・クアレスマジョアン・モウチーニョも同アカデミー出身。]

 

スポルティングポルトガルで初となるアカデミーを開設したのは2002年。ベンフィカポルトのアカデミーと同様に一貫して4-3-3システムを用いている。しかし、コーチは全員が“実地視察”のために様々な場所へ行く。バルセロナのラ・マシアやアヤックスのデ・トゥコムストはもちろん、才能の原石を輩出し続ける南米にも足を運び、どのような指導が行われているのかを見て、そこで得た知識を吸収しようとしている。

 

U-16チームの練習中、ある選手が20ヤード(約18メートル)ほどのパスを続けて失敗した。彼はその直前に相手選手を3人かわして25ヤードものミドルシュートを決めていた。私は冗談めかして、彼はここで最高の選手か最低の選手か分かりませんねと言った。するとミランダは顔をしかめながら「彼はもう見込みの無い選手だ。彼の肌、足を見てください。彼の体はもう完成してしまった。本気で言ってます。私達は3カ月ごとに子供達に身体検査を行っています。その子は必要なレベルに達していませんが、成長は止まっています。我々は肌に出来たニキビや膝など関節の成長具合をチェックしています。」と答えた。

 

ミランダは続ける。「もしも年齢に応じて定められたスタンダードを下回るパフォーマンスをする選手がいて、その子の肉体の成長が止まっていた場合、私達はリリースします。我々は成長の止まった15歳よりも痩せこけた不格好な選手を好みます。繰り返しになりますが、クリスティアーノはパーフェクトな例なのです。私達は彼に14歳でプロになってもらおうとは思っていませんでした。20歳の時点でプロとしてプレイしてくれることを願っていました。」

 

アウレリオ・ペレイラはクラブのユース採用部門で長らくディレクターを務めてきた人物で、フィーゴパウロ・フットレシモン・サブローサジョアン・モウチーニョ、セドリック、リカルド・クアレスマ、ナニらの発掘・獲得に関わった。しかし、ロナウドはクラブにとって別格の存在なのだという。70歳のペレイラは若きロナウドの思い出を、目を輝かせながら語る。強さと速さを身に着けるために、足に重りを付けて路上を走る車を追わせたりしていたそうだ。

 

「遠くの場所から選手を獲得するとなると、出来るだけ早くアカデミーに来させることが目的になります。我々はいつか大物になるであろう若者の人生を変えようとしているのです。それぞれの長所と短所を見分け、それを練習に反映させます。」ペレイラは言う。

 

スポルティングは選手ではなく、成長しようとする人に関心を寄せる。トッテナムに移籍する前、スポルティングに8歳の頃から所属していたエリック・ダイアーはかつてそう語っていた。スポルティングというクラブは人を礼儀正しく尊敬できるように育てることに誇りを持っているんです。パスを失敗したくらいでは絶対に叱りませんが、他人に対して敬意を欠いた行動をしたときは叱ります。このクラブが考える良い選手とは、ミスをしたことを理解し正すことのできる者のことです。初めてイングランドに来てプレイしたとき、コーチがミスをした選手を責め立てているところを見ました。彼らは文字通り試合中ずっと選手に何かを言っているのです。ポルトガルでは、コーチはベンチに座ったまま何も言いません。僕たち(選手達)はただプレイをすればいいんです。ミスをしたとしても、そこから自力で学びを得るのです。こっちの方が競技への理解が深まりますよね。私にとって同じミスを2度してしまうことが悪い選手のサインです。」とダイアーは言う。

 

f:id:dodonn_0704:20180319232716j:plain

[スポルティング所属時代のエリック・ダイアー]

 

一人一人の選手が日々の生活を幸せに送れるようにすることはクラブにとっても大きいことだという考えをミランダは強く持っている。「ここでは適切な食事と睡眠を重要視しています。規則正しい生活は選手としてのパフォーマンスにも大きな影響を与えるのです。そして、ピッチ上で良いパフォーマンスを出せた選手は人生におけるチャレンジにも前向きになれます。人として成長することは、とても大切なことです。」

 

ロナウドの成功は彼自身の人生を物語るものだが、フィーゴのそれも同様だ。彼は様々な経験を通して成長し、今では五か国語を流ちょうに操り、経営するバーとレストランはポルトガル中に展開している。ストップ結核パートナーシップ(結核患者への慈善活動)への支援を行いながら、インテルが展開するチャリティ事業でも重要な働きをし、FIFAの会長選にも挑んだ。

 

 

 

依然として憮然とした表情のウェイターに向かって“boa noite”(ポルトガル語で「おやすみなさい」の意)と声をかけてアカデミーを後にした。ロナウドなどポルトガル代表のEURO制覇に貢献したアカデミー卒業生達のサインが入ったTシャツが掛かる場所を通り抜ける。ここから世界中に広がるプロ選手、ヨーロッパ王者、そしてバロンドール受賞者の姿は、『努力、ひたむきさ、献身、栄光』というクラブが掲げるモットーの賜物なのだ。

世界中へ才能を出荷するベンフィカアカデミーで過ごした一日(The Guardian)

最近3年の間で下部組織出身者(Bチーム含む)を売ったことによって得た移籍金収入は2億3千万ユーロ以上。世界最高の育成機関とも称されるベンフィカのアカデミーを取材したAlex Clapham氏の記事がGuardianに掲載されていましたので、今回はその記事をざっくり訳しました。元記事はこちら。同氏によるスポルティングCPアカデミー取材記の翻訳はこちら


マンチェスターシティのエデルソンを見てください。彼がここに来たときはファヴェーラ(スラム街)出身の単なる選手で、臆病すぎてペナルティボックスを飛び出すことも出来ませんでしたよ。それが今ではプレミアリーグで最もリスクを冒せる選手になりましたね。ベルナルド・シウバも同様にトップクラスの選手です。我々は過去に彼をモナコに売却しましたが、その数週間後にはテレビの中でフランス語を話していましたよ。彼が良い例ですが、このクラブは少年達に生きるためのスキルを与えているのです。」

 

f:id:dodonn_0704:20180315231208j:plain

[2017年夏、共にマンチェスターシティに加入したベルナルド・シウバとエデルソン。二人ともベンフィカの下部組織出身。]

 

こう話すのは、ベンフィカのU-15チームの監督を務めるルイス・ナシメントだ。場所はテーガス川の土手、ベンフィカが誇るカイシャ・フトボル・キャンパスだ。

 

2006年、エウゼビオという人がこのフットボールセンターを開設した。そこには国外からも65人の少年達が集まって寮生活を送っている。ピッチは9面を備え、ドレッシングルームは20部屋、講堂は2つあり、世界最先端のジムが3カ所。選手を360度囲んだパネルの明滅とブザーに応じてボールが射出され、それをコントロールしてから指定された的に蹴り返す360Sシミュレータという装置が設置されているラボもある。そこで選手達はテクニックの向上に努め、映像分析を受け、栄養学や心理学のテストも行われる。このシミュレータはドルトムントが使い始めたことでよく知られるフットボーナウトのようなものだが、ベンフィカが使用しているのはパネル上にロボットのような選手の映像を流すこともできる。若い選手達は10フィートの中でボールをコントロールし、動く的に向かって蹴ることによって反応速度、視野、実行精度などを測るのだ。

 

f:id:dodonn_0704:20180315231459j:plain

[ベンフィカのアカデミーで使われている360Sシミュレータ。パネルに映る画像は練習メニューに応じて変わり、技術、認知など様々な分野を鍛え上げる。]

 

ナシメントは語る。「ユース年代というのはベンフィカにとって非常に大切な分野です。競技成績においても、社会的にも、経営的にもね。私達は“トレーニング”に限った話を選手達にすることはありません。“教育”にも触れるようにしています。選手達の学業成績もモニタリングされていますし、全ての年代で勉強を頑張るよう指導しています。全ての年代の選手達に一定の技術水準と教育的な部分での成熟を保証することがミッションです。ファーストチームへ上がることに集中するとともに、尊敬、責任、団結、正義、寛容といった人としてのバリューも伸ばしていきます。」

 

 

 

U-15の選手達が練習場にやってきた。すると、全ての選手達がオフィスに来ては私と握手をしていくのだ。彼らはみな「こんにちは」と挨拶をしてくれた。中には少し頭の薄くなった警備員をからかうことに熱心な子もいたが、どれも楽しいものだった。ここが特別な場所であり、来られたことがいかに幸運なことかを思い知った。そして、こういった若者たちが感じていることがどれほどスペシャルなものかを想像した。

 

このクラブには高水準のリスペクトがある。スタッフとはファーストネームで語り合い、キッチンで働く人と冗談を言い合い、清掃員のためにドアを押さえてあげているのだ。ベンフィカが選手売却クラブとして評判を高める中で、若手選手達はクラブがしっかり面倒を見て成長させてくれることを分かっている。昨シーズンの終わりにはベンフィカU-21に所属する54人もの選手がプロ契約のオファーを受けたが、出て行く選手によって得た金はアカデミーへと投入されていく。最近3年間でベンフィカはアカデミー出身の選手を売却することによって2億3千万ユーロ以上の収入を得てきた。

 

ベンフィカというクラブにはユース組織からポルトガル2部で戦うBチームへ上がるという確固たる成長ルートがある。現在のBチームにはアカデミーの卒業生が16人所属している。彼らは(ユースの試合よりも)タックルが強く、試合中の汚い駆け引きも満載で、勝利こそが全てという大人のリーグで戦っている。ベンフィカのアカデミーでは“勝つための成長”というモットーが明確に機能している。カイシャ・フトボル・キャンパスをオープンした2006年以降、彼らはスポルティングポルトといったライバルクラブをユースレベルの大会で上回ってきた。

 

U-13チームから一貫して4-3-3を用いることで、10代の間に特定のアイデアを浸透させる。フィジカル的に成長していない子を守るために、またはより大きく強い相手にチャレンジさせるために異なる年代のグループでプレイさせることも珍しくない。13歳の頃から選手達は7時間ほどを練習施設で過ごし、そのうち90分から120分は“ラボ”にいる。そこで彼らは心理学、生理学、栄養学、理学療法、映像分析、そして360Sシミュレータでの練習に取り組む。

 

夕方の練習が始まる前にもU-15の選手達は私に今日2度目の挨拶をしてくれた。ピッチ脇にコーチの一団が陣取っていたのだが、その横には運動生理学者とフィジオセラピストがいて、各年代のチームを担当する映像分析官が練習と試合の様子を撮影している。たった一つのキックすら漏らさないようになっているのだ。

 

選手達と手がヒリヒリするほどのハイタッチを交わしたことで私は一つ発見をした。ここには本当に多くの選手達がいるのだ。U-13から上の年代では、それぞれのスカッドはゆうに3チーム作れるくらいの選手を抱えている。この戦略によってクラブは国内のいたるところから優秀な選手を惹きつけることができ、それだけでなく選手間の競争意識も作ることができる。全ての選手がチームメイトとユニフォームを争うのだ。彼らは子供だが、無慈悲な競争者を育てる環境に置かれている。

 

34人の選手が準備を終え、運動生理学者とのウォームアップをこなすと、コーチのナシメントが呼び寄せて練習メニューを発表する。アカデミーでの勤続年数が10年以下のコーチはおらず、道徳的な部分と信頼はしっかり築かれているけれども、練習が始まって12分ほど経ってからナシメントが見せた姿は“気の良いおじさん”とは程遠いものだった。そこにあるのはディティールに拘り抜き、選手がうんざりし始めた後でも40分も練習のやり直しをする男の姿だ。

 

カップ戦まで二晩しか残されていない中で、ワイドのエリアからの攻撃について練習が行われた。ウィングが片方のサイドで数的優位を作ってからサイドチェンジをしたり、ウィングバックのオーバーラップを使ったりするものだ。プレイや動きのタイミングがきっちり定められた練習で、全てのタッチ、パス、動きに完璧さが求められる。

 

練習を一通り終えた後、選手達はセンターサークルに呼び戻された。7分ほどの話し合いを経て、再び各自のポジションに戻っていく。続いて展開されたのは、コーチが想像していたのとほとんど同レベルの完璧なプレイだった。ディフェンダーをやっつけてからクロスに合わせるストライカーや3対2を作り出す高速カウンターなどボスが目指してきたものを選手達は表現した。クオリティは格段に向上したが、自動化されるまでさらに練習は続いた。

 

「選手達からベストを引き出すためには、彼らから信頼を得て、『今、何をしているのか』と『何故、しているのか』を理解させなければなりません。私は現在指導している選手が子供だった頃から見ていますから、どこを刺激すればいいかを分かっています。水曜日の対戦相手は最終ラインに6人の選手を投入しコンパクトな低いブロックを作るチームです。リスクを冒せる者が必要なのです。」とナシメントは一日の終わりに語ってくれた。

 

「私達は選手個人の人間の部分にたくさんの時間をかけて働き掛けてきました。そして、映像分析はそれぞれの選手に自己批評をさせます。責任をしっかり理解し、集団のために犠牲心を持てるようになり、人として正しい姿勢を身に着けてから、我々は選手達をチームという環境の中で扱い、試合に勝つ術を伝えるのです。」

 

これこそが鍵である。一人の人間として学び、成長し、それから若者達は試合に勝つことの重要性を教わるのだ。

 


 

 <訳者追記>

【過去3年間でベンフィカが行った主な下部組織出身選手の取引】

f:id:dodonn_0704:20180315233027p:plain

※移籍金の単位はユーロ。

 

 

 

 

 

デジタルスカウティングツールWyscoutは現役選手をもサポートする(SKY)

各国リーグの試合映像を網羅し、さらにそれらを選手やプレイの種類ごとにタグ付けし、各種スタッツと共に公開している有料会員制スカウティングツールWyscout(公式HP)。その有用性は今や世界中のクラブや代理人にとってお馴染みのものとなりました。その波は現役の選手にまで及んでいるようで、チェルシーに所属するブラジル代表ウィリアンも自身のパフォーマンスをチェックするために利用しているという記事がSKYに掲載されていました。今回はその記事をざっくり訳しました。元記事はこちら


Wyscoutは2004年の公開以来、新戦力のスカウティングを人間による目利きからデジタルなモノへと変貌させる過程で重大なパートを担ってきた。そして今、ウィリアンのようなトッププレイヤーまでもが活用している。

 

プレミアリーグにおける95%ものクラブがトレーニングオフィスでWyscoutを使うことで快適に世界中の選手のスカウティングを行っている。そして、それは87の国と地域におけるトップリーグでも同様の光景である。

 

Wyscoutはパソコン、携帯電話、タブレット端末で各国500以上のリーグの選手データと映像を閲覧することが出来る会員制サービスであり、ユースやセミプロのレベルまでカバーしている。

 

クラブのスカウトや代理人はこれを用いて選手の成長を追っていく。次世代の有望株を継続して見続けることも出来るし、必要があれば新たなターゲットを探すことも出来る。

 

CEOのマッテオ・カンポドニコは、今年の1月に行われた移籍交渉の大半はWyscoutから始まったと信じている。そして、Skyスポーツとの独占取材において「目当ての選手を最初に見る場所はフィールドからWyscoutになりました。移籍交渉の世界に、ある種の民主主義を持ち込んだと言えるでしょう。全てのクラブが世界中どんな選手であっても見ることが出来ます。」と語った。

 

f:id:dodonn_0704:20180312234852j:plain

[WyscoutのCEOマッテオ・カンポドニコ氏。大学卒業後、IT系企業就職を経て2004年にWyscoutを起業した。]

 

「実際に選手のプレイを見ずに獲得した、とクラブの人が言っていたのを覚えています。移籍市場のラスト数日ではよくある話です。選手を見る時間なんてありませんからね。誰かの評判を信頼するしかないのです。しかし今では、選手のプレイを見てから信頼をすることが出来るのです。」

 

所属選手達にパフォーマンスデータを見せるクラブもいくつかある。レスターは早いうちからこういった取り組みをしたクラブの一つで、2015/16シーズンにリーグ優勝をしたときには大きな助けとなった。レスターは選手達にiPadを支給し、試合やトレーニングでの映像を見せたり、新加入の選手への事前説明にも使ったりしていた。

 

しかし、現在は選手が自身のパフォーマンス分析をする時代だ。チェルシーのウィリアンはWyscoutを用いて自身のパフォーマンスを確認するエリート選手のうちの一人である。彼は試合で出した全てのパス、全てのインターセプション、全ての空中戦、全てのスローインを映像で見ることができ、そこから学ぶことで成長につなげている。

 

対戦相手についての事前準備にも用いることが出来るし、他のリーグで活躍する選手を見て学びを得ることも出来る。さらに、ウィリアンの父であるセベリーノ・ダ・シルバも息子のプレイをフォローするためにWyscoutを使っている。彼は「Wyscoutは全てのプロサッカー選手にとってパーフェクトなツールです。息子のパフォーマンスを確認するために必要なことが全て詰まっています。そして、それはブラジルだけでなく全世界の選手にとっても同様でしょう。」と語る。

 

f:id:dodonn_0704:20180312235307j:plain

[Wyscoutに公開されているウィリアンの情報ページ。詳細な個人スタッツや試合中の各種プレイ映像を見ることが出来る。]

 

プロだろうがアマチュアだろうが全てのフットボーラーがWyscoutのアプリをダウンロードして自身の成長に役立ててほしいというのが、Wyscoutが持つ野望だ。

 

カンポドニコは「コーチがビデオを使って私を指導してくれたのがWyscout開発のきっかけです。マルコ・ファン・バステンロベルト・バッジョの映像を使っていました。コーチが私に見せてくれた全ての動きを覚えていますよ。こういったインタラクティブなやり方についても研究しています。Wyscoutは今や世界中全ての選手にとっての教材です。新しいアプリを公開して以来、我々はこのアイデアを発信してきました。」と語る。

 

ジャーナリストたちもまた、Wyscoutを利用し始めている。特に移籍関連の話題の場合、一般的には情報は様々なソースから断片を集めて、それらをジグソーパズルのように統合することで記事を作る。

 

Wyscoutはその作業の助けにもなる。例えば、各指標に基づいて選手を順位付けするパワーランキング機能は検索機能付きで情報を提供してくれる。各局のリポーターにクラブが狙う選手のタイプについて学ばせ、彼らに適切な質問が出来るようにする。

 

試合の分析を行う解説者の助けにもなる。ベースとなるデータはWyscoutから得られるので、あとはそれを視聴者の興味を引くように加工するのだ。

 

「ジャーナリストが、コーチが行うように試合の分析を行うのは当然のことになりました。TwitterInstagramを開き、スタッツを確認するのも普通のことです。このレベルのフットボール分析は今や世界中、どんなレベルのリーグでも見られます。これら全てが、我々が担う分野なのです」とはカンポドニコの言である。

 

「2015年から我々はデータに関する大きな製品を始めました。クラブ、コーチ、スカウト、ゴールキーパーコーチ、代理人、ジャーナリストに向けて作ったものです。データは重要ですが、それだけでは不十分です。フットボールを理解するためには映像が必要だと我々は確信しています。Wyscoutにある新たな製品のほとんどは、データとビデオを融合させたものです。」

 

f:id:dodonn_0704:20180313001048p:plain

[Wyscoutの製品紹介ページ。代理人向け、スカウト向け、選手向けなど様々な顧客向けに最適化されたプランの中から必要に応じて選択する方式だ。全ての国、リーグの映像にアクセスできるプランは月額300ユーロ。]

 

SKYスポーツがマッテオ・カンポドニコに取材をしたのは、彼のホームタウンにしてWyscout創立の地でもあるキアーヴァリにあるWylabだ。Wyscoutはそこでノイズフィード(クラブ、メディア、ジャーナリストなど様々な媒体から出ているニュースをまとめて閲覧できるサービス)などのスタートアップ企業の手助けをし、彼らに足掛かりを提供している。

 

カンポドニコは語る。「現代フットボールの最高峰では、我々は素晴らしい仕事をしてきました。しかし、当たり前のことですが立ち止まることはあり得ません。もっと何かをしたい。夢はまだ終わっていません。我々が起業したとき、フットボールの世界にいる全ての人にWyscoutを使ってもらえたら最高だと夢見ていました。いつか世界中にいる全ての選手にWyscoutを使ってほしいですね。」

 

フランクフルトが描く欧州挑戦への道筋(DW Sports)

CL・ELの出場権が懸かる2位以下が非常に混沌としている今季のドイツ・ブンデスリーガ1部。本記事執筆時点で2位シャルケから6位RBライプツィヒまでが勝ち点4差にひしめく大混戦の中、日本代表のキャプテン長谷部誠擁するフランクフルトは現在4位。実は昨季もフランクフルトは途中まで3位に付けながら史上稀にみる大失速を犯し、二桁順位になってしまった苦い経験を持ちます。「じゃあ今季も危ないんじゃないの?」という疑問に答える記事がドイツのスポーツニュースを英語で発信してくれるDW Sprotsに載っていたので訳しました。元記事はこちら


 

ホームのコメルツバンク・アレナでハノーヴァーを1-0で下したことにより、実現すれば6年ぶりとなるフランクフルトのヨーロッパ挑戦のチャンスはさらに大きくなった。バイエルン・ミュンヘンが首位を独走する裏で行われている熾烈な2位以下の争いにおいて、フランクフルトは4位に位置している。

 

f:id:dodonn_0704:20180308195614p:plain

[第25節終了時点の順位表。フランクフルトはシャルケドルトムントに次ぐ4位につけている。]

 

実は、イーグルス(フランクフルトの愛称)は昨季も似たようなポジションにいた。去年の彼らは19試合を終えた段階では3位につけていたが、そこからシーズン終了まで一勝も挙げられず、最終的には順位表の下半分に属することになってしまった。フランクフルトのファンにとって唯一の慰めとなったのは2006年以来となるDFBポカール決勝進出だったが、そこでもドルトムントに2-1で敗れた。

 

今季のフランクフルトは、欧州への返り咲きを狙うシャルケレヴァークーゼンなどと共に激しいチャンピオンズリーグ及びヨーロッパリーグ出場権争いに身を投じている。そんな中で、スポーツダイレクターのフレディ・ボビッチと監督のニコ・コヴァチイーグルスが昨季の二の舞を演ずることがないよう歩を進めてきた。

 

 

<選手層に裏付けられたアグレッシブさ>

 

昨季、コヴァチ率いるフランクフルトはアグレッシブなフットボールでリーグを盛り上げた。ハードなタックルを繰り出し、ボールの即時奪還には並々ならぬ熱意を持っていた。しかし、このアプローチはしばしば彼らを困難に陥らせた。84枚のイエローカード、6枚のレッドカードはどちらもリーグ最多の数字であり、ディシプリン(規律)の欠如は大量の出場停止につながった。コヴァチはピッチ上においてもベンチ内においてもフルメンバーを揃えることに苦しんでいた。

 

今季の彼らから苛烈な守備が消え去った訳ではない。しかし、ダイレクターのボビッチは、監督には十分な選手層を保証する。また、フランクフルトは悪い結果から立ち直る強さを備えたチームでもある。フランクフルトは今季7敗を喫しているが、敗戦直後の試合には全て勝利している。

 

f:id:dodonn_0704:20180308200240j:plain

[今季のフランクフルトは連敗しないチームである。]

 

フランクフルトの選手層の厚みは日曜のハノーヴァー戦によく表れていた。コヴァチ監督はディフェンダーのマルコ・ルス、ミッドフィールダーケヴィン・プリンス・ボアテング、ミヤト・ガチノヴィッチらレギュラー格の選手をベンチに置いた。ディフェンダーのシモン・ファレットが前半のうちにイエローカードを貰うと、後半頭からマルコ・ルスが投入された。ボアテングとガチノヴィッチも交代で出場し、イーグルスをしっかり勝利に導いた。

 

f:id:dodonn_0704:20180308200617j:plain

[15/16シーズンの終盤からフランクフルトを率いるニコ・コヴァチ。現役時代はクロアチア代表として83試合に出場。]

 

このような贅沢な選手起用はコヴァチがフランクフルトに来てから経験したことがないものだ。そして、フランクフルトをヨーロッパ挑戦に導くうえでも大きな助けとなるだろう。

 

 

<偏りの少ない攻撃>

 

何年にもわたり、フランクフルトの攻撃はアレクサンダー・マイヤーのゴールに依存してきた。しかし今季は、4ゴール以上を挙げている選手がチームに5人もいる。これは2009/2010シーズン以来のことである。

 

セバスティアン・ハラーは8ゴールを挙げてチーム得点王だが、6試合連続で得点が無い。それでもフランクフルトはその6試合から4勝をもぎ取ってきた。

 

いくつもの選手からゴールが飛び出すチームは安定して強い。アントニー・モデストを失ったケルンの状態を思えば納得できる話だろう。

 f:id:dodonn_0704:20180308201038j:plain

[昨夏ユトレヒトから加入したセバスティアン・ハラー。今季ここまで公式戦28試合出場で12ゴール6アシスト。]

 

<報われた我慢>

 

フランクフルトはガツガツと当たりながら守るチームにしてはパスを賢く、それでいてダイレクトに使う。今季の彼らは1試合あたりのパス本数ではリーグ13位だが、アシスト数では6位につける。これは彼らが用いるパスがいかに効果的を示している。マリウス・ヴォルフは好例で、彼はチーム最多の6アシストを記録している。

 

しかし、我慢はパスにのみ当てはまる話ではない。選手個人についても言えることだ。ディフェンダーのダニー・ダ・コスタやフォワードのルカ・ヨヴィッチは出場機会を待ちわびていた。そして、ひとたびチャンスが来ると両者はそれにしっかり反応してみせた。ダ・コスタは最近4試合に続けて先発出場しており、ハノーヴァー戦では決勝ゴールを挙げている。ヨヴィッチは今季4試合しか先発出場していないが、4ゴールを決めている。そのうち2点は交代出場から決めたものだ。

 

もしもフランクフルトがこの調子を維持することができれば―そして、周囲のビッグチームの不調が続けば―彼らのヨーロッパ挑戦は現実的な話になる。