With Their Boots.

ラカゼットとジルーの立場から見えてくるクラブと代表のフットボール(ESPN)

2017年の8月にESPNで公開されたマイケル・コックス氏の記事をざっくり訳しました。テーマはオリヴィエ・ジルーとアレクサンドル・ラカゼット。二人は共にアーセナルでプレイするフランス人フォワードですが、レギュラーはラカゼット。一方、フランス代表ではジルーがレギュラー。こういった状況を通して、クラブと代表におけるフットボールの差を探るという内容になっております。元記事はこちら


 

2012年に始まったアーセナルでのキャリアにおいて、オリヴィエ・ジルーは様々なタイプのセンターフォワードとスタメンの座を争ってきた。

 

ジルーの獲得に際して、アーセン・ヴェンゲルは彼をロビン・ファン・ペルシの代役に位置付けていた。ファン・ペルシは現代的でテクニカルなフォワードだったが、彼がマンチェスターユナイテッドへ移籍したため、ジルーが事実上の9番となった。大きくて、フィジカル的な強さ溢れるジルーという存在は、かつてのヴェンゲルが好んでいたタイプのストライカーとはかなり違った印象を受ける。

 

その結果として、ヴェンゲルはより小回りが利き、トリッキーなタイプを前線に求めるようになる。2013年にはルイス・スアレスを獲得しようとし、翌年にはアレクシス・サンチェスダニー・ウェルベックと契約。そして2016年には、ジェイミー・ヴァーディを狙ったが、失敗したためにルーカス・ペレスに落ち着いた。セオ・ウォルコットも2015年のFA杯決勝などのビッグゲームでは散発的に起用されてきた。

 

そして今夏、ヴェンゲルはアレクサンドル・ラカゼットに手を出した。彼は素晴らしいヘディングゴールをレスター相手に決めてアーセナルでのキャリアを始めたが、基本的には素早くて、選手と選手の間でこそ活きるスピードのあるタイプだ。

 

それによって、ジルーはまたしてもバックアップに甘んじることなる。昨季の後半も、彼は自らを先発メンバーとして適切だと何とかアピールしようとしてきた。彼の前には新たな、素早くて、若いフォワードが立ちはだかったのだ。しかし、今回の争いについては、もうひとつ興味深い側面がある。ラカゼットとジルーは同じ国の出身ということである。

 

そのことが、何故そんなに面白いのか?それは、フランス代表チームにおいてはジルーこそがレギュラーのセンターフォワードで、ラカゼットはEURO2016のスカッドにも入れず、ワールドカップ予選でも引き立てられてきた訳ではないからだ。ジルーこそが主力で、2番手はケヴィン・ガメイロが務めてきた。

 

代表監督のディディエ・デシャンは明らかにジルーの方を優れた選手だと思っており、一方でヴェンゲルはラカゼットこそがアーセナルというチームを進歩させてくれると信じている。このことは単に二人の監督が持つ異なる見解が云々ということだけでなく、クラブと代表における性質の違いを物語っている。

 

ある一定のレベルを超えたエリートクラブが代表チームよりも圧倒的に優れていると感じたのは、一度や二度ではないだろう。しかし、スタイル自体の差異は、以前よりもずっと大きくなっている。クラブレベルのフットボールにおける特徴は、特にプレミアリーグにおいて言えることだが、強烈なスピードである。これは二つの面においてよく表れている。

 

一つ目は、チームはより高い場所で、より激しくプレスを掛けるようになった面。各チームによってレベルの差はあれど、なるべく早くポゼッションを回復するために、より多く、よりまとまって、より際限なく高い位置でプレスを掛けることを最近のクラブチームは重要視している。

 

こういった特徴は代表レベルにはほとんど無い。EURO 2016では大半のチームが強烈な執念と共に自陣に引きこもり、深くコンパクトな陣形を保っていた。

 

二つ目はプレッシングのレベル差に起因することではあるが、パスのテンポである。これはクラブレベルの方が圧倒的に速い。チームはよりダイナミックにプレイするようになり、アタッカーは頻繁にポジションチェンジをするが、それは事前に用意されたものである。選手達はチームメイトの動きを知り尽くしており、複雑な形のパス交換でもほとんど直感的に決めて見せる。

 

 

ジルーはスーパーサブとして並外れた評価を受けている。彼はレスターとの開幕戦でも交代選手として出場して決勝ゴールを決めた。しかし、彼が先発したときのアーセナルは、攻め込むことができずにいることが多い。彼はクロスの終着点としては素晴らしいものを持っており、ペナルティボックスの縁で相手ゴールを背にしながらのプレイを非常に得意としている。しかし、選手と選手の間に入り込んでのプレイは特技ではない。現代のフォワードにしては珍しく、相手ディフェンダー間で交換されるボールを追いかける姿はひどく苦しそうだ。一方で、もう一つの問題として彼とメズト・エジルの相性が特別に良い訳ではないという事実がある。

 

エジルには彼のスルーパスに追い付いてくれるセンターフォワードが必要だが、ジルーは彼のフリックパスや落としのパスに反応して追い越してくれるような10番を必要としている。ポジションにおける関係では全く異なるエジルとジルーだが、タイプとしては似たようなものがある。二人とも決定的なゴールを求めるタイプではなく、犠牲心を持つアシスターなのだ。

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そしてラカゼットがやってきた。彼は鋭い走りと突発的な動き出しを備えている。リンクプレイも得意で、ゴールを背にしてプレイするだけのフィジカルも獲得してきた。彼はジルーよりも典型的なアーセナルセンターフォワードだと言える。

 

フランス代表では事情が異なる。このチームにおける主役アタッカーはアントニオ・グリーズマンだ。彼はジルーのすぐ後ろにセカンドストライカーとして配置され、ジルーが持つボール保持能力を囮に使ったり、彼に釣られてポジションを上げた相手DFの背後を襲ったりと、その恩恵を存分に受けている。

 

さらに、フランス代表は、自陣のペナルティボックスに退却するのではなく、高い位置で中盤と関わりながらプレイしようとするチームと相対することがほとんど無い。こういうときに、トラディショナルなターゲットマンは生きる。だから、ジルーが選ばれるのだ。

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トラディショナルな9番タイプが代表レベルで活躍することは普通の話であり、クラブレベルでは評価されていない選手が代表チームにおいて最前線を務めることもよくある。先のワールドカップではブラジル代表のフレッジがいた。2010年のワールドカップでは、直前のシーズンにアストンヴィラで3ゴールしか挙げていないエミル・ヘスキーイングランド代表の先発に選ばれた。

 

ポルトガル代表はウーゴ・アウメイダエルデル・ポスティガに長年にわたって頼り切りだったし、ミロスラフ・クローゼターゲットマンではないが、典型的な9番の選手― はクラブレベルで苦しんでいたときでもドイツ代表の地位を保ち続けた。昨年のEUROでスペイン代表を打ち破ったイタリア代表は、フォワードとしては迫力に欠けるグラツィアーノ・ペッレとエデルの二人を前線に並べた。

 

これらの選手はワールドクラスではないし、正真正銘のトップクラブでは輝いていないかもしれない。しかし、古風な原理を基盤とする代表監督にとって有用であることを証明していた。

 

だからこそ、ラカゼットとジルーの物語は、現代フットボールにおけるクラブと代表の関係を如実に表していると言えるのだ。ラカゼットがアーセナルのチャレンジを牽引し、フランス代表のワールドカップ制覇に関してはジルーに譲るという将来を予想しよう。これは何も矛盾を孕んだ話ではない。理にかなった話である。