With Their Boots.

ジョルジオ・キエッリーニへのインタビュー(Daily Mail)

00/01シーズンに故郷リヴォルノでプロデビューして以来、数々の賛美とトロフィーと生傷を負ってきたジョルジオ・キエッリーニも2018年の夏には34歳になります。勇猛果敢なプレイで仲間を鼓舞する情熱的なファイターとしての印象が強い彼ですが、経済学と経営学の学位を取得し数多くの慈善活動に参加するピッチ外での姿はあまり知られていないモノかもしれません。今回はDaily Mail電子版に掲載されていたキエッリーニのインタビューをざっくり訳しました。元記事はこちら


ジョルジオ・キエッリーニは、ユヴェントスでチームメイトだったアルバロ・モラタが彼とのトレーニングを「腹を空かしたゴリラと同じ檻に入れられて、エサをあげるようなもの」と評したことを聞いて思わず吹き出してしまった。

 

多くのストライカーもモラタと同様の考えだろう。キエッリーニは現在33歳。しかし、11月20日からの15試合でたったの1失点しかしていないユヴェントス守備陣の一員である。

 

無失点で過ごした試合時間は22時間を超え(2018年2月7日時点)、その間にはバルセロナインテル、ローマ、ナポリなどとの試合もあった。来週にはチャンピオンズリーグトッテナムと激突する。ハリー・ケインも様々な得点記録を打破してきたが、ユヴェントスの最終ラインを攻略できるかどうかは彼にとって重大なテストになるだろう。(結果は2戦合計4-3でユヴェントスの勝ち上がり)

 

キエッリーニはその中核をなす存在だ。伝統的なイタリア人ディフェンダーである彼は、ストリートファイトのメンタリティを備えた屈強な守備者である。

 

4度の鼻の怪我、キングコングのように胸を叩いてのゴールセレブレーション、ワールドカップではルイス・スアレスに肩を噛まれた。それでもキエッリーニは肩をすくめて「ノープロブレム」と言う。

 

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[ゴールを守るためなら、たとえ怪我を負っていようとも体を張るのがキエッリーニの信条だ。]

 

「合計で4回も鼻を折りました。問題なのは僅かでも得点を決めたり失点を防いだりするチャンスがあったら、我慢できなくなっちゃうことですね」キエッリーニはにやりと笑いながら言った。

 

しかし、ピッチ上でのグラディエーターのような振る舞いは彼本来の姿を投影したものではない。キエッリーニは非常に奥深い存在で、彼と過ごした1時間あまりで彼がスポーツ界でも有数の学識深い思索家であることを思い知った。

 

フアン・マタが全世界のフットボール選手にコモン・ゴール(プロフットボール選手による慈善活動)への参加を呼び掛けたとき、キエッリーニはすぐに返答した。

 

キエッリーニがこういった活動に熱心なことは、イタリアではよく知られたことだ。故郷であるリヴォルノにある身体障害者を支援する劇場のサポートも行っているし、障害を持った子供達にスポーツをする機会を提供するInsuperabiliというチャリティ事業の共同設立者でもある。この事業も最初はトリノの街だけだったが、今ではイタリアの15の都市で活動している。

 

「フアン(・マタ)のインタビューを見て、マッツ・フンメルスが参加したことを知りました。私はまず彼らのウェブサイトにメッセージを送ったんですが、事務員は15歳くらいの子供によるイタズラだと思ったらしいです。だから、ビデオ通話をして自分が本当にキエッリーニだということを証明しなくちゃいけなかったんですよ!」

 

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[フアン・マタの発案で始動したフットボール選手による慈善団体コモン・ゴール。キエッリーニフンメルス以外にもホッフェンハイムの監督であるナーゲルスマン、女子サッカー米国代表のラピノ、日本代表の香川真司らも参加している。]

 

「物事を変えられるかどうかは分かりません。でも、子供達を笑顔にしたいんです。それが実現できたときの感情は言葉では表せないでしょう。我々の役割とは尊敬される存在になることで、これはとても大切なことです。子供達は我々が言ったこと、やったこと全てを真似します。生まれた瞬間から人生が決まってしまっている子供達が実に多い。私は彼らに自分の力で人生を決めるパワーを与えたい。」

 

昨年、マタはフットボール界で高騰するコマーシャリズムと「馬鹿げたほどの」給料に伴う社会的な責任について語った。キエッリーニは経済学の学士と経営学修士を取得している。

 

キエッリーニは言う。「不安や心配という言葉を用いて我々が受けている豊かさを形容するのは間違っています。自らを犠牲にしてきましたが、これほど多くの給料を貰っていいとは考えたこともありません。ただ、自分が幸運だということは分かっています。だから、サポートを必要とする人のために使わなければいけないのです。」

 

「サポートはお金だけを指すわけではありません。短い映像でも、ちょっとしたメッセージでも、実際に訪問するのでもいいでしょう。とにかく気持ちを伝えることです。私はこれまで世界中を旅してきました。南アフリカやブラジルの最貧地域にも行きました。タイに泊まったときには、五つ星ホテルを出て角を一つ曲がった路上で寝ている人を見ました。とても貧しく、市場では地面に絨毯を敷いて寝ている人もいました。彼らは川で、雨水で衣服を洗っています。コモン・ゴールは国際的なムーブメントです。ここまでイタリア人は私だけですが、もっと広がることを願っています。」

 

故郷リヴォルノにいる旧友たちからは、メリアン・クーパー監督の映画に出てくるキングコングに例えられる。キエッリーニという男は気高き野人なのである。

 

「二重人格みたいなものですよ。ピッチ上ではトップレベルに辿り着くために、こういうスタイルが必要でした。私はテクニカルなスキルに恵まれた訳ではありませんから、練習して成長しなくてはなりませんでした。フィジカルやテクニックに恵まれた選手でも大成するのはごく僅かです。必要なのは情熱なのです。同年代の選手の中ですら、最高という評価を受けたことはありません。みにくいアヒルの子のような存在です。見ていて美しさを感じることは無いでしょうが、常に成長しています。成長できることこそが、私が持つ最高のスキルです。33歳になりましたが、毎シーズン自己最高を更新しています。そこに秘密なんてありません。とにかく情熱と努力あるのみです。」

 

情熱という言葉が出たことで、話題は前のユヴェントスとイタリア代表監督アントニオ・コンテに移った。

 

「イタリアン・パッションですよ。」そう言ってキエッリーニは息をついた。「試合中だけではありません。一日中ずっとです。全ての練習で彼は情熱に満ちていました。彼と過ごしたユヴェントスでの3年、イタリア代表での2年の間、彼がまとう雰囲気には特別なものを感じていました。」

 

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[ユヴェントスとイタリア代表で共に栄光を目指したコンテ(写真右)とキエッリーニ。EURO2016では非常にソリッドな戦い方で優勝候補のスペインやベルギーを破った。]

 

「トレーニングが終わったときは、ほとんど死んだような状態でした。疲れたなんていうレベルじゃないんです。死です。こんなことが出来たのも、彼のすることを信頼できたからこそです。我々イタリア代表チームは(EURO2016のとき)フランスで40日間いっしょに過ごしましたが、別の世界に突入したみたいでした。彼が世界最高の監督のひとりであることは確かです。」

 

コンテがイタリア代表を離れてから、同代表は急速な下降線をたどった。キエッリーニもワールドカップを逃したチームの一員だった。

 

「正直に言って、(ワールドカップ期間中は)お腹を刺されたような感覚になるでしょうね。良いひと月を過ごせるとは言えないと思います。試合も少しは見るだろうし結果もチェックするでしょうけど、家で座ったままワールドカップをTV観戦するなんて想像できません。」

 

キエッリーニは、彼の同胞たちは基本に立ち返るべきだと主張する。ペップ・グアルディオラはイタリアのディフェンダーを壊してしまいました。彼は素晴らしいマインドを備えた素晴らしいコーチですが、イタリアの指導者は彼と同等の知識も持たずにコピーしようとしてきました。そして、この10年間で我々はアイデンティティを失ってしまったのです。」

 

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[ワールドカップ出場を懸けたプレイオフスウェーデンに敗れたイタリア代表。]

 

「(パオロ・)マルディーニ、(フランコ・)バレージ、(ファビオ・)カンナヴァーロ、(アレッサンドロ・)ネスタ、(ジュゼッペ・)ベルゴミ、(クラウディオ・)ジェンティーレ、(ガエターノ・)シレア……今の我々が持っているのは(レオナルド・)ボヌッチだけです。この10年間でイタリアは良いディフェンダーを一人も輩出できていません。私が今望んでいるのは、イタリアサッカー界がリスタートを切り、イタリアのフットボールを再び発信することです。ワールドカップ(予選)での結果は、私達が抱える問題を証明したものです。」

 

しかしながら、ユヴェントスは依然として巨大なチームだ。マッシミリアーノ・アッレグリ率いるチームはここ3シーズンのチャンピオンズリーグで2度の決勝進出を果たした。セリエAも7連覇を目指し戦っている。

 

かつて、キエッリーニイングランドのクラブから移籍を打診されたこともあるし、マウリシオ・ポチェッティーノ率いる「エキサイティングな」トッテナムについて熱く語りもするが、「イタリアの人間にとって、ユヴェントスを去るときはユヴェントスから売りたく思われたときだけ」と語る。

 

ボヌッチ、(アンドレア・)バルザーリ、私、そしてジジ・ブッフォンが最後方にいたときのチームはスペシャルでした。技術的にどうとかという話ではなく、フィーリングや感情、経験のレベルで素晴らしかった。」

 

キエッリーニユヴェントスやイタリア代表が持っていた上昇志向に似た物をトッテナムからも感じているという。「強いチームですよ。(ヤン・)フェルトンゲンと(トビー・)アルデルヴァイレルトのベルギーコンビが好きです」と語ってくれた。

 

「ハリー・ケインはファンタスティックな選手です。彼とは3年前にも対戦しましたが、その頃から大きく成長しました。今や一年間でメッシよりも多くのゴールを挙げる選手です。キエッリーニより多くの得点を挙げるのとは違う次元の話ですね(笑)」