With Their Boots.

クリスティアン・エリクセンが語る"創造性"(Independent)

トッテナム・ホットスパー、そしてデンマーク代表の創造性を司る存在であるクリスティアン・エリクセン。技術、判断、ワークレイトを高次元で兼備する現代型MFの典型のような選手です。そんな彼が自身のフットボール観や"創造性"の身に着け方を語ったインタビューがIndependentに掲載されていましたので、ざっくり訳しました。元記事はこちら


クリスティアン・エリクセンフットボールについて語ることが大好きだが、彼自身にとってベストなパフォーマンスについて聞かれたときにははっきり答えられないほどに慎ましい男でもある。チーム全体が素晴らしいプレイをしていることを強調してから、一つを選ぶことはできないと語った。

 

f:id:dodonn_0704:20180403070627j:plain

 

アウェイでのユヴェントス戦はどうだろう?エリクセンは試合全体を支配し、30ヤードも離れた場所からフリーキックでゴールを決めてみせた。ホームでのマンチェスターユナイテッド戦はどうだろう?彼は試合開始10秒でリードを奪い、試合終了まで優位を渡すことはなかった。エリクセンは肩をすくめて、普通の人はそういう場面を注目してくれるものだと認めた。「もちろん、それが普通の見方ですよね」とも言った。

 

では、エリクセン自身は自らをどのように見ているのだろうか。彼は(少なくともマンチェスターシティの選手以外では)プレミアリーグで最もインテリジェンスとイマジネーションに満ちたミッドフィルダーだ。彼は過去4年に渡って、トッテナム・ホットスパーにおける創造性を司る存在である。スペースを見つけ、ボールを要求し、試合を支配する。ゆっくりプレイすべきタイミングはいつなのか、速く行くべきタイミングはいつなのか、ターンすべきとき、パスすべきとき、シュートすべきとき。すべてを分かっている。彼のプレイを一目見ただけで、エリクセンがほとんど全ての現役選手よりもフットボールを理解していることに気付くだろう。

 

エリクセンがゲームについて考えるとき、彼自身が持つスタンダードと照らし合わせて良いプレイかそうでないかを見分けている。パフォーマンスを理解する手法というのは測定可能なものというよりは直感的なものだ。エリクセンは熱心に試合を見返すタイプではないし、統計データにこだわることもない。(そういうものが無くとも)彼は分かっているのだ。

 

自身のプレイをどう評価しているのかを問われたエリクセン「だいたいのことは頭の中にあります。」と答えた。「全ての人は自身のプレイが良いプレイだったか悪いプレイだったか分かってるものだと思います。ピッチの内側…ピッチ上で感じていることと外側で見ていて感じることはかなり違っているものです。僕自身がピッチ上でプレイしながら感じていることは、他の人とは少し異なる部分があるかもしれません。試合の見方や試合後の考え方という部分で、ですね。」

 

エリクセンがいかに優れた選手かを示す統計データはたくさん存在する。彼がスパーズに加入して最初の年と昨年にスパーズファンが選ぶ年間最優秀選手賞に輝いたという事実もある。特に昨シーズンは35ゴールを挙げたハリー・ケインを押し退けての受賞だった。Optaによれば、エリクセンは2013年にイングランドにやって来て以来、プレミアリーグで46のアシストを記録した。これは同期間内における数字としてはメスト・エジルに次ぐ好成績で、その数字は年々増加している。ここ2シーズンで言えばエリクセンはさらなる高みに達した。欧州5大リーグの選手の中でエリクセン(32アシスト)よりも多くのアシストを公式戦で記録したのはケビン・デ・ブルイネ(39アシスト)とネイマール(37アシスト)だけだ。さらに、その間のチェンスクリエイト数では、255回のデ・ブルイネに次ぐ数字(250回)を記録している。

 

我々のような観戦者はエリクセンの素晴らしさを示す数字に夢中になりがちだが、当の本人はそういったものに対してほとんど興味を持っていない。それらの数字は良いプレイをした末に生じる副産物に過ぎず、それ自体が目標になることは無いというのだ。スタッツを使って自身のパフォーマンスを評価することはあるかと問われたエリクセン「全くありません」と答えた。彼が目指しているのは「可能な限り試合に影響を与え、可能な限り試合展開に参加すること」である。「一番大切なことは、最善を尽くすことです。パスを出したら、アシストを記録したり決定機を創出したりできるのか。そういうところに拘るべきだと思います。」

 

では、ゴールやアシストを記録できた試合は良い試合なのか?「いや、違います。そういうことではありません。」エリクセンは答えてくれた

 

この競技を極めた者にとっては、良いプレイをしたという事実はあくまでも個人賞にしか過ぎない。「もちろん、ゴールやアシストを記録できればチームの助けになります。ただ、(ピッチの)外側から見ている人は数字やスタッツに注目し過ぎだと思います。そういう動きはどんどん大きくなっています。この方向こそがフットボール界の進み方でしょうね。でも、僕自身はそういうことには本当に注目していません。自分が出来る最高のプレイを目指して、出来るだけ多くのクリエイティブな仕事をしようとしているだけ。それだけです。」

 

出来るだけ多くのクリエイティブな仕事とは、確かに高尚な目標である。しかし、エリクセンに掛かれば非常に簡単な話に聞こえてくる。これをお読みの皆様はもしかしたらエリクセンフットボールを理解するための特別な言葉を持っていたり、この競技の持つ複雑さを解き明かすカギを持っていたりすることを期待しているかもしれない。しかし、彼はそんなものを持っていない。彼がピッチ上で見せているプレイに秘密など存在しない。

 

「目に映らないようなことをしているとは思いません。普通の人が目にしているのと似た感じですよ。何か秘訣があるようなことをやってるとは思わないですね。常にオープンにしています。とにかく試合展開に出来るだけたくさん関わるようにしています。スペースを作って、周りの選手と繋がるようにという感じです。外から見てる人が見落とすようなものだとは思いません。」

 

今季のエリクセンがこなしてきたクリエイティブな仕事は見逃す方が難しいほどのものだ。昨季も素晴らしい出来だったが、今季はそれを上回る。アウェイのボーンマス戦では中盤セントラルの位置から試合全体を掌握し、ボール奪取からソンフンミンへパスを出しチーム4点目をアシストした。完璧に試合をコントロールしたと言っていいだろう。今季のプレミアリーグエリクセンが欠場したのは、1月に行われたアウェイのサウサンプトン戦だけだ。この試合は今季のスパーズにとって最低のパフォーマンスで、盛り上がりに欠けたまま1対1で終わった。

 

では、創造性、クリエイティブさが(エリクセンが言うように)非常にシンプルなものであるならば、彼と比肩するほどに優れたフットボール選手がほとんどいないのは何故なのか。これもお決まりのことではあるが、先天的な理由と後天的な理由がある。たしかにエリクセンはヴィジョン、バランス、コーディネーションという点で天賦の才を持っている。しかし、そういった才能は彼自身によってよく磨かれたものでもある。彼の両親は共に地元のフットボールクラブでコーチをしており、当時2歳のエリクセン少年は4歳児を相手にプレイしていた。10代をデンマークの神童として過ごした彼は、16歳のときのアヤックス入り、21歳のときのトッテナム行きといったキャリアの各ステップで一生懸命に考え、ハードワークをしてきた。

 

f:id:dodonn_0704:20180403070812j:plain

[アヤックスに在籍していた頃のエリクセン]

 

エリクセントッテナムに移籍した1年後、マウリシオ・ポチェッティーノが監督としてやってきた。彼はトッテナム組織力、インテンシティ、集中力といったチームが長らく持ち得なかったものを注入した。そしてエリクセンはハリー・ケインやデレ・アリといった面々と共にプレイすればするほど、彼らのプレイや走りを学び、それらを察知する術を身に着けていった。エリクセンは、創造性は「常に自分と共にあったもの」と言うが、成長させるためには経験の積み重ねも必要だと語る。

 

「(先天的なものと後天的なものの)両方があると思います。知覚の部分を鍛えて伸ばすことは間違いなく可能です。もちろん、ピッチ上でのフィーリングや知覚の能力を予め備えていることもあります。しかし、あるポジションでプレイすればするほど、そのポジションに慣れるし、チームメイトのテンポなどあらゆることに順応していくものです。ますます自然に、どんどん素早く感じられるようになります。」

 

エリクセンの言った現象はスパーズで実際に起こってきたものだ。若手選手が共に成長するということである。これこそが、監督や選手を入れ替え続ける裕福なライバル達を上回ってきたトッテナムが持つ強みである。彼らの後塵を拝しているビッグクラブの多くは持続性、チームワーク、信頼関係こそが最高のプレイを生み出す方法だということを分かっていないのだ。

 

「多くの試合に出て、多くのシチュエーションを経験することで学べるものがあります。我々は本当に多くの試合を一緒にプレイしてきました。互いに何を予期しているかを理解しているのです。僕が背後へ出すボールも予測できるし、デレ(・アリ)のランニングも予測できます。ハリー(・ケイン)が備えているのがセカンドボールなのかファーストボールなのかも分かります。」

 

「味方の選手達を認識するということです。ボールを受ける前にチームメイトあるいは相手選手のいる場所を認識するんです。そして、素早く判断を下して実行に移す。まさに直観みたいなものですね。僕らのチームにはほとんど直感のレベルで素早い意思決定を行える選手がいます。これが最も大切なことです。」

 

味方の前方へのランニングを察知し、素早く判断を下したエリクセンの次なる仕事は実行することだ。たとえボールを失うリスクがあるとしても、である。「文字通り一瞬です。味方がオープンになった、体勢も良い、ファーストタッチも良い。あとはチャレンジするだけです。意図した方向へターンする必要があるときは、決断を下すまでに1秒くらいかかるかもしれません。走った味方を信じられたら、彼が予測する軌道と落下地点にボールを届けるだけです。これらほとんどのことは直観的なものです。」

 

チームとして醸成された調和した動きにおいて、エリクセンはスパーズの自由人だ。そして、ピッチ上に生じるスペースを感じながら自由を謳歌している。今季のスパーズにとってのベストゴールはホームのエヴァートン戦で決めた、ピッチ上の選手全員が加わって13本のパスを繋いだ末のゴールだ。エリクセンが出した4本目のパスは、ハーフウェイの左サイドからベン・デイビスへ出したものだったのだが、そこからパスが9本続いた後、エリクセンはボックス内でアリのバックヒールパスをゴールに沈めた。「チームがボールを保持しているとき、僕はチーム内で最も自由な存在だと思います。スペースのある場所へどんどん走ってヘルプしようとしています。」

 

youtu.be 

しかしスパーズがボールを失ったとき、エリクセンであっても自由は取り上げられる。ポチェッティーノ監督はプレッシングと守備陣形には確固たるアイデアを持っており、そのアイデアにはエリクセンも含まれる。昨季の彼は主に3-4-2-1の2列目のどちらかを任されていたが、今季は4-2-3-1の2列目右サイドを担当してきた。これはつまり、相手の左サイドバックを追いかけなくてはいけないということだ。彼はこういったプレイを熱意と自己犠牲の精神を持って行っている。「当然、中盤(の真ん中の方)でプレイしているときよりも相手のレフトバックに対しては気を使わなくてはいけません。ほとんどの人はそれほど気にしてないでしょうが、自分の仕事をします。当然のことです。こういった方法でもチームを助けたいんです。」

 

現代のフットボールは、少年時代のエリクセンが憧れたミカエルとブライアンのラウドルップ兄弟やフランチェスコ・トッティが活躍した頃とは大きく異なる。彼らはチームがボールを持っているときには活躍してくれるクリエイティブな選手だが、スイッチを切って一息つきながらチームメイトが守備しているところを眺めることも許されていた。しかし、ポチェッティーノ率いるスパーズのような現代的なチームは、協調して組織的なプレスを繰り出すマシーンだ。各人が与えられた役割を全うしなくてはならない。タダ乗りは許されない。

 

「今は新しい時代です。昔と比べたら新しい方法でフットボールはプレイされています。彼ら(ラウドルップトッティ)は僕とは異なるタイプで、セカンドストライカーに近いですかね。現在の僕よりもずっと多くの自由が与えられていました。」

 

つまり、エリクセンマンチェスターシティのケビン・デ・ブルイネなどは21世紀のミッドフィルダーなのだ。素晴らしいテクニックを持ち、試合を決めることも出来る。そして、チームを守備で助けるためのアスリート性と自己犠牲の精神も兼ね備えている。現代フットボールで成功する選手とは、こういった選手達だ。

 

「本当に変わりましたね。どの選手もシャープだし、凄くフィットしています。どのチームも組織的で、全てのために戦っています。ミッドフィルダーでもクリエイティブな選手でも10番の選手でもです。こういった選手達は少し楽な役回りをしていますが、それでも変わりました。こういったポジションにもチームのために働けるだけでなく、フォワードを助けられる選手が必要です。変わったんです。もちろん10番として自由を与えられている選手もいますが、それでもチームのために働く務めがあるという点で違っています。」

 

エリクセンや彼らのチームメイトと同じくらいトッテナムというチームは成長している。あとは最後のステップを踏み出すだけだ。スパーズが2対2で引き分けたユヴェントスとのアウェイ戦でエリクセンは素晴らしい活躍をした。折り返してのホーム戦、ウェンブリーでリードを奪ったスパーズはクウォーターファイナルまで残り25分というところまで漕ぎつけた。しかし、そこから全てが崩れてしまった。試合結果が彼らの手から離れてしまった経緯をエリクセンは少しのフラストレーションを感じながらも振り返ってくれた。

 

「僕が思うに、ユヴェントスは待っていました。僕たちはこのまま間違いなんて起きないと、ほとんど自信過剰になっていたと思います。勝ち抜けるために優位な立場、ほとんど完璧な立場にいました。僕らはユヴェントスが大きな舞台に慣れていること、それほどボール保持を必要としていないことを思い知りました。」

 

f:id:dodonn_0704:20180403072203j:plain

[ユヴェントスのホームで戦った1stレグでは開始10分までに2点を奪われる苦しい展開だったが、エリクセンを中心に素晴らしいプレイを見せたスパーズが追いつき2対2のドロー。ロンドンに帰っての2ndレグでも躍動感あふれるフットボールを展開し、先制点を奪うことに成功したが、したたかなユヴェントスは64分からの3分間で2点を奪い逆転。2戦合計4対3で勝利し、若きスパーズの準々決勝進出を阻んだ。]

 

しかし、次の機会があればスパーズは違うことをしなければならないとエリクセンは理解している。「冷静沈着になることですね。チャンピオンズリーグのノックアウトステージでは、たった3分間で物事が決まるということを僕たちは学びました。ユヴェントスは2本のシュートで2点を取りました。3分でもいいからもっと注意深くなる必要があります。そうすれば二度と同じことは起きませんし、勝ち抜けのチャンスはもっと広がります。」

 

チャンピオンズリーグは来年まで待たなければならないが、今度の土曜日(2018年3月17日)にはスウォンジーとのFAカップ準々決勝がやってくる。それに勝てばウェンブリーに戻って戦うことができる。昨年感じた苦しみとは無縁のホームグラウンドだ。

 

「(タイトル獲得まで)本当に近い所に来ました。決勝、準決勝で負けた経験もしてきました。重要な試合で望む結果は得られていません。クラブにとっては重大な局面です。今ここにいる選手達の全てがトロフィーを欲しがっています。僕がここに来た頃とは違います。みんな勝つためにこのクラブへやってきて、勝つためにプレイします。本当に変わりました。」