With Their Boots.

体制からの逆風に耐えて、イラン代表をアジア最強に仕立てたカルロス・ケイロス

2018年4月、日本サッカー協会ハリルホジッチ監督を解任しました。W杯2カ月前に協会が下した決断に対して、背後に存在しそうな何かを感じ取った人も少なくないでしょう。そこで今回は実際に政治の世界から過干渉を受けながら、イラン代表をアジア最高のチームに作り上げたカルロス・ケイロス監督の記事を訳しましたので、ご紹介いたします。彼が率いたイラン代表は、堅実な戦いぶりでアジア予選を無敗で通過しました。長らくFIFAランキングでアジア最上位を堅持する同代表は、ロシアW杯でも台風の目になることを十分に期待できるグッドチームです。元記事はこちら

※なお、記事中の各指標は基本的に記事が公開された当時(2017年8月末、アジア最終予選のラスト2試合が行われる前)のものになります。


 

マンチェスターユナイテッドを率いるジョゼ・モウリーニョは、FIFAが最近リリースした年間最優秀監督候補に名を連ねた。しかし、彼よりもその座にふさわしい者がいる。彼はかつてオールドトラッフォードマンチェスターユナイテッドのホームスタジアム)のNo.2だった。

 

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[カルロス・ケイロスは1953年生まれのポルトガル人監督。過去にはレアルマドリードポルトガル代表、名古屋グランパスを指揮した経験を持つ。]

 

マンチェスターシティのペップ・グアルディオラもそうだが、モウリーニョもリーグパフォーマンス向上のために数百万ポンドを投じてきた、しかし、カルロス・ケイロスと彼の率いるイラン代表による功績は真に素晴らしいものだ。

 

このモザンビーク生まれの監督は、イラン代表をアジア最高のチームに仕立てただけでなく、2018年W杯でノックアウトステージ進出もあり得るチームにした。

 

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[マンチェスターユナイテッドでアシスタントコーチを務めていたころのケイロス(写真左)。監督のサー・アレックス・ファーガソン(写真右)と共に数々のタイトル獲得に貢献した。]

 

イラン代表は最速でW杯出場を決めたブラジル代表の次に出場権を確保したチームである。彼らは残りの2試合で韓国代表とシリア代表に連勝すれば、今回の記念すべき戦いを無敗で終えることができる。(2戦連続引き分けで無敗を守った。)

 

ケイロスは8月31日にソウルへ乗り込んでくる。この元ポルトガル代表監督が率いるイラン代表は、韓国代表に対して4連勝中だ。韓国代表が9回連続でのW杯出場を目論んでおり、アジア地区でも最も成功してきたチームということを考えれば至難の業である。

 

3次予選(日本で言うところの最終予選)で、イラン代表はここまで8試合を戦って20ポイントを勝ち取り、2位の韓国に7ポイント差をつけてトップに立っている。史上4例目となる無敗での予選突破を決めただけでなく、720分間(90分×8試合)にもわたって1失点も許さなかった。(最終戦でシリア代表に2失点し、全試合無失点はならず)

 

ピッチ上のパフォーマンスと結果はFIFAランキングにも反映された。イランは4年以上もアジア最高位に君臨し続け、現在の24位まで着実に順位を上げた。これはアジア2位の日本代表を20も上回る順位である。(2017年8月末段階)

 

こういった功績は、他の大陸の有力チームでは起こり得ない問題とケイロスが直面してきた末のものでもある。イランのフットボール界では、政治もその一部をなしている。大きな試合の準備を妨げられたことも過去にあった。イランが世界で孤立気味であることもそれなりに大きな課題をもたらしてきた。親善試合の相手探しや海外からの資金調達などの面で他のAFC加盟国よりも面倒なことが多いのだ。

 

こういったことは近年、改善が進んでいるとはいえ、韓国や日本やオーストラリアといった同じ大陸の強豪には存在しない障害も立ちはだかる。ソウル、シドニー、東京などで働く代表監督は、今月初めに起きたような事態を対処する必要に迫られることは無いだろう。イランのスポーツ界を管轄する機関が、イラン代表の主力選手二人に代表チームでの活動を禁ずるという声明を発表したのだ。その二選手が所属するギリシャのクラブチームが、ヨーロッパリーグ予選でイランが国として認めていないイスラエルのクラブチームと対戦したことが理由だった。

 

結局、ベテランのマスード・ショジャエイはチームから外され、エルサン・ハジ・サフィは残ることができた。ショジャエイは、6月、6万人の観客が詰めかけたテヘランでイラン代表がW杯出場権を獲得したときにキャプテンマークを巻いていた。その男が出場できなくなったのだ。

 

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[所属クラブがイスラエルのクラブと対戦したことで、代表活動への参加を禁止されたショジャエイ。2018年3月の代表期間には招集が許可され、無事に復帰を果たした。しかし、イランの議会からは「彼の代表活動参加は生涯禁止されるべき」という声が未だに上がっている。]

 

6年の任期中にケイロスは辞任を考えたこともあるし、実際に辞任したこともあった。2017年の初めにも辞任をしている(後に協会と和解して復職)。彼とイランフットボール協会の関係は緊張状態になりやすい。しかし、体制は、この元ゴールキーパーと共に良い進路を取れていることを分からなければない。

 

ケイロスが作り上げたチームは、確かなパフォーマンスを発揮し、プレッシャーのかかる状況を楽しめるチームだ。韓国のサッカー界にとっては、羨ましくなるものである。「こういった状況では多くの選手は重いプレッシャーを感じるものです」とは、元韓国代表のキャプテンでマンチェスターユナイテッドのレジェンドでもあるパク・チソンがイラン代表と韓国代表の試合前に語った言葉だ。「しかし、国を代表する選手ならば、そのプレッシャーを乗り越えて自身の能力を示さなければいけません」と続けた。

 

ケイロスの下でイラン代表は、期待が大きいときにも応えられるようになってきた。W杯出場には勝利が必要なテヘランでのウズベキスタン戦、全ての人がイランの勝利を予想して、彼らは実際に勝利をした。

 

チームはマシーンのように精密になり、将来が楽しみな選手も出てきた。代表戦26試合出場で19ゴールを挙げ、UEFAチャンピオンズリーグでも素晴らしいパフォーマンスを見せ、昨夏にはラツィオへの移籍寸前まで行っていたサルダル・アズムンはまだ22歳だ。(2017年8月末段階)

 

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[17/18シーズンはロシアのルビン・カザンでプレーするサルダル・アズムン。2014年の代表デビュー以来、多くのゴールを挙げてきた。]

 

カリム・アンサリファルドオリンピアコスで活躍しており、レザ・グーチャンネジャドはオランダリーグで3番目に多くの得点を挙げ、国内クラブに所属するメフディ・タレミは予選中に重要なゴールを決めることで彼の能力に疑いの目を向ける者を黙らせた。そして、中盤には弱冠20歳のサイード・エザトラヒが、その才能と共にスターになりつつある。彼らの背後には非常に強固な最終ラインが構えている。

 

監督の指揮の下、イラン代表は同国史上最高のW杯が期待できるチームになっただけでなく、この先何年間もアジア最上位に留まれるようなチームになった。

 

そして、こういったことは全て、類まれな指導によって積み上げられたものである。果たして、ヨーロッパ以外で起きたことは重要ではないのだろうか。ケイロスの働きはFIFAの年間最優秀監督賞にノミネートされて然るべきもののはずだ。