数字から探るイニエスタとヴィッセル神戸の可能性
2018年5月末に発表されたアンドレス・イニエスタ選手のヴィッセル神戸加入は、世界的にも大きなニュースになりました。それに関連して、あらゆるスポーツのスタッツを計測・収集しているOptaという企業が運営するOptaPro Blogで、イニエスタとヴィッセル神戸の将来をスタッツから探るという主旨の記事が公開されましたので訳しました。元記事はこちら。
先ごろ、アンドレス・イニエスタがバルセロナから日本のJ1リーグに所属するヴィッセル神戸へ移籍することが確定した。OptaProでは、このスペイン人MFが新しいチームから期待できること、ヴィッセル神戸が想像性あふれるMFの能力を最大限引き出すために適合する必要のある部分を簡単なスナップショットと共に紹介する。
チームのパスに関するスタイルはボールを保持している状態での哲学を表し、説明するのに使える。バルセロナとヴィッセル神戸のパススタイルを並べて比較することで、イニエスタが新しい所属先から期待できることを洞察していく。
もちろん、バルセロナがヴィッセル神戸よりも優れたクオリティを備えていること、全く異なるリーグを戦っている事実が直接の比較に影響を与えることは明らかだ。しかし、この比較によってヴィッセル神戸が小柄な天才を活躍させるためにどれくらい適応させるべきかをざっくりと知ることはできる。イニエスタ自身が新しいチームでどう生きていくかも見えてくるだろう。
下図は、バルセロナとヴィッセル両チームがどのようにボールを扱うかを示している。各リーグの他チームとの比較で、どのようなスタイルを備えているかが見えてくる。
[バルセロナのボール保持に関する指標。各スタッツで軒並み最上位になっていることが目立つ。一方で、前方へのパス比率(%PassFwd)やクロス数(Crosses)はリーグでも最少クラスだ。]
[ヴィッセル神戸のボール保持に関する指標。こちらも各種スタッツで平均を上回る数字を記録しており、その意味ではバルセロナの志向に近いことが伺える。ただし、クロス数はリーグでも多い方であり、そこが相違点として目立つ。]
ラ・リーガにおいて、バルセロナはボールポゼッションに関連する指標で1位になっている。タッチ数、ペナルティエリア内でのタッチ数、パス企図数、パス成功数、自陣でのパス数、敵陣でのパス数などだ。真逆の分野に目を移すと、おそらく驚くようなことではないが、クロスを上げた回数は最少、前方向へ出されたパスの割合も19番目だ(リーグ平均36.6%に対して、バルセロナは30.5%)。
では、現在J1リーグ6位につける(15節終了時点)ヴィッセル神戸と比べてみよう。パス企図数とパス成功数でともに4位であることから、彼らがポゼッションを軸にしたスタイルからそう遠くないことが分かる。イニエスタとの相性も良さそうだ。
ヴィッセル神戸が我慢強く、ポゼッション中心のアプローチをとっていることは、前方向へのパス割合が低いことからも見えてくる(32.7%は18チームの中で最も低い数字だ)。ヴィッセル神戸の1試合平均パス企図数は532回で、バルセロナの638回には遠く及ばないものの、ラ・リーガの中でも3位に入る数字だ。やはり、プレイスタイルを比較する上ではフェアな数字と言えるだろう。
この分析をチーム単位からリーグ単位へと拡大する。下図は両リーグの1試合平均の数字を抜き出したものだ。
[上段から合計パス数、ロングパス割合、クロス数。]
一見すると、両リーグの間にスタイルの差異はなさそうだが、イニエスタが1試合あたりのクロス企図数がリーグ最少(10.8回)のチームから、1試合あたり23回のクロスを上げるチームへ移ることは強調しておきたい。
もちろん、イニエスタがクロスの終着点となるべくボックス内へ遅れ気味に突入するようなMFになる可能性は低いだろうが、ヴィッセル神戸のアプローチの中で、イニエスタはボールが中央の狭いスペースではなくサイドにあると感じる頻度が高まるだろう。
バルセロナで過ごした輝かしいキャリアにおいてイニエスタは、チームのスタイルを花開かせられるエリート級のタレントに囲まれてきた。イニエスタのパフォーマンスが全く新しい環境、異なるチームメイトに囲まれた中で変化するのかはまだ分からない。しかし、フィールド上から読み取れるサインは、試合に勝利するための全てを勝ち取ってきたMFにとっては明るいものである。