With Their Boots.

サイドバックは何が、どこで変わったのか?ギャリー・ネヴィルが語る現代”サイドバック”論。(SKY)

フットボールにおける戦術進化の過程で、様々なポジションに新たな役割が与えられる事態が起こりました。その中でもフルバック(いわゆるサイドバック)の変容は目覚ましいものがあります。今回は、元マンチェスターユナイテッドの名サイドバックであるギャリー・ネヴィルがSKYの番組でサイドバックの進化・変化について語ったことをざっくり訳しました。元記事はこちら


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フルバック(以下サイドバック)として8回のプレミアリーグ優勝を誇るギャリー・ネヴィルが、サイドバックが味方に奉仕する存在からチームのキーマンへと変貌していった過程を語った。

 

サイドバックを務めることは20年前と比べて様々な理由により非常に難しいものになった。それは、そこからさらに20年前と比較しても同じことが言えるだろう。

 

困難さの一因にはルールの改正がある。2004年のアーセナルとの試合で私達がホセ・アントニオ・レジェスに行った対応を思い浮かべてほしい。我々は彼に対してとてもアグレッシブにぶつかることが出来たし、そうすることで彼を試合の流れから取り除くことが出来た。今そんなことをしたら私は退場させられていたかもしれない。現在のサイドバックが相手のウィングに対してこのようなプレイをしたら退場になってしまうよ。ただ、このルールの変更自体は正しいものだと思う。

 

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[アーセナルレジェスに激しいタックルを見舞うネヴィル。当時のプレミアリーグでは、相手のキーマンを厳しい対応で止めるサイドバックが少なくなかったという。]

 

第二に、ワイドでプレイする選手は最早ウィンガーとは言えないということだ。何人かウィングらしい選手は残っているが、サラー、マネ、スターリング、ベルナウド・シウバらを見てほしい。彼らはシーズンで15点~20点を決めている。彼らはゴールスコアラーであり、45分間で5回も6回も7回も8回も非常に捉えづらい走り込みをしてくるワイド・フォワードなのだ。

 

私が現役の頃はこういった(ポジションの)選手達は、私の外側(タッチライン側)にいたし、内側を走るような選手はほとんどいなかった。4-4-2システムの一員として足元にボールが来るのを待ち、それからペナルティボックスに向けてクロスを狙うばかりだった。

 

こういった傾向は私がマンチェスターユナイテッドでの現役生活を終える頃には少しずつ変わっていた。その頃から変化は大きくなり、言うなれば革新的な選手も次々と現れた。彼らは選手間に生じたスペースや(守備側の選手の)背後でプレイする。

 

しかし、私のキャリアのうち最初の10年間ほどは、とても優れたウィンガーで良いクロスを蹴るジェイソン・ウィルコックスやトレヴァー・シンクレアのような選手と相対するのが一般的だった。シンクレアは右利きの左ウィンガーという点で少し異色だが、彼らは対面するサイドバックよりも外側でプレイするのが普通だった。内側で何かするウィンガーなんて本当にほとんどいなかったんだ。

 

ハリー・キューウェルなんかも外側でプレイしてペナルティボックス目掛けてクロスを狙う選手だったね。私が対戦したウィンガーはこういうタイプの選手ばかりだった。

 

 

The modern full-back

≪現代的なサイドバックとは。≫

 

次にネヴィルは、どのようにフラットな4バックが姿を変えていったか、1990年代に受けたサイドバックとしての教育、ネヴィル自身が現在のサイドバックとしてプレイするのが難しいと感じる理由について語ってくれた。

 

もしも私が今現在の選手とサイドバックとして対戦したら、すごく難しい思いをするだろう。彼らのスピードは今や凄まじい。

 

我々は現代のサイドバックにはアタッカーとしての能力も求められると話すことがあるが、このことも守備に回った場合の負担が大きくなっている原因だろう。現代のサイドバックは、ボールもしっかり扱えなければならないし、1試合に12~13kmも走らなければならない。現代のサイドバックが要求されていることは、私が現役の頃より遥かに大きいんだ。


プレミアリーグサイドバックのスプリント回数】

選手名 チーム 90分間あたりのスプリント回数
ベン・チルウェル Leicester 21.03回
アンドリュー・ロバートソン Liverpool 18.95回
ライアン・セセニョン Fulham 18.95回
カイル・ウォーカー Man City 17.73回
セアド・コラシナツ Arsenal 17.41回

 

旧来のサイドバックとしての感覚のまま解説席に座り、「私が現役の頃はこれもやったし、あれも出来たね」なんて話すのは間違っているんだよ。ものすごくタフなポジションになってしまったんだからね。

 

現役時代にはブライアン・キッド(当時のユナイテッドのアシスタントコーチ)の声が鳴り響いていたものだ。「後ろからサポートするんだ!背後からサポートだ!」ってね。アウェイ戦ではずっと後ろの方でサポートばかりしていた。右後ろの方で召使いをしているみたいだったよ(笑)オーバーラップをするのはそれからさ。私のキャリアの最初の5年か6年はそんな感じだったね。

 

ティーブ・ブルースとデイヴィット・メイ(共に’90年代前半にユナイテッドでCBを務めていた)は、いつも私に近くでプレイさせようとしていたが、しばらくしてから素早く動けるヤープ・スタムとロニー・ヨンセンがCBを務めるようになったんだ。そのときかな、変化を感じたのは。ヨーロッパ流のディフェンダーは外側に引っ張り出されて守ることも苦にしないんだ。これによって私はもっと前でプレイできるようになった。ロベルト・カルロスカフーサイドバックに対する見方を大きく変えたと思う。

 

 

 

以下は、同記事内でネヴィルが、現在のリヴァプールマンチェスターシティ、マンチェスターユナイテッドサイドバックについて分析した内容である。

 

Klopp deserves credit

≪クロップへの称賛≫

 

リヴァプールは前線の選手が注目を集めているが、サイドバックトレント・アレクサンダー・アーノルドとアンドリュー・ロバートソンがリーグで最も成長した選手である。アカデミー出身のアレクサンダー・アーノルドと£1000万で契約したロバートソンこそが、アンフィールドにクロップが持ち込んだ影響の典型だとネヴィルは解説する。

 

リヴァプールサイドバックは、タッチライン沿いにプレイをしなければならない。なぜなら、フォワード陣が非常に内側に絞ってプレイするからだ。

 

ロバートソンは素晴らしいサイドバックになった。我々は過去に「ロバートソンの内側に走り込め。彼は前に出て行く分には良い動きをするが、守りはそうでもないぞ」と言ってきた。しかし、彼がリヴァプールで見せてきたプレイは、特に守備の面において私を驚かせた。

 

これまでも私達は、ユルゲン・クロップが持つ選手を育てる力について話題にしてきた。ロバートソンや他の選手、特にサディオ・マネ、モハメド・サラー、ロベルト・フィルミーノ、この3人と同様にロバートソンも別次元の存在になったが、これらの選手の成長を促してきたことはユルゲン・クロップの偉大な功績である。

 

 

Pep's demands incredible

≪ペップの尋常ならざる要求≫

 

マンチェスターシティのサイドバックは中盤の選手に並ぶレベルに見えるが、ネヴィル曰くセントラルディフェンダーの20ヤードも前でのプレイは、グアルディオラの最も特筆すべき特徴だという。

 

ペップ(・グアルディオラ)が率いるチームのサイドバックがセントラルミッドフィールドに参加するのを初めて見たのは、2014年のミュンヘンマンチェスターユナイテッドとのチャンピオンズリーグの試合だったが、そのときは「彼らは何をやっているんだ?」って思ったよ。今までの人生でこんなことは見たことが無かったんだ。

 

グアルディオラはシティでも同じ方法を継続した。彼からサイドバックの選手達への要求は非常に高い。ペップのチームのサイドバックは、フェルナンジーニョと共に相手のカウンターアタックを防ぐ主要な存在であると共に、攻撃を継続できるようなポジションを維持しなくてはならない。そのために、彼らは常にパスを受けられる状態を保ちながら、相手の突破を防ぐ盾となる必要がある。

 

 

United's full-back issue

≪ユナイテッドが抱えるサイドバック問題≫

 

2013年にアレックス・ファーガソンオールド・トラッフォードを去って以来、ユナイテッドは最適なサイドバックを見つけるのに苦労しているとネヴィルは指摘する。現在はアシュリー・ヤングアントニオ・ヴァレンシアが務めているが、ユナイテッドは割安な投資でランクの下がる選手を獲得するよりも、No.1ターゲットに巨額の投資をすべきだとネヴィルは感じているようだ。

 

私がユナイテッドを去ったとき、ラファエル・ダ・シルバはマンチェスターユナイテッドにとってパーフェクトなサイドバックだと思っていた。彼は粘り強く、アグレッシブで、ボールも十分に扱えた。でも彼は、売られてしまった。

 

アシュリー・ヤングは、マンチェスターユナイテッドについて批判するときに槍玉に挙げられるような選手ではない。右のサイドバックだろうが左のサイドバックだろうが右のウィングバックだろうが左のウィングバックだろうが、求められたことにはしっかり応えてきた。でも、彼は右のバックスではないよ!アントニオ・ヴァレンシアも2シーズンほどよくやってきたが、彼はどちらかというと右のウィングだ。

 

どうしてユナイテッドが右のディフェンダーにここまでの問題を抱えているのかは分からない。£1500万で良いサイドバックは獲得できない時代なのに、ここ数年間でユナイテッドは5人のサイドバック獲得に£1億近くを投じてきた。

 

対するシティは、カイル・ウォーカーダニーロとバンジャマン・メンディの獲得に巨額を投じてきた。ユナイテッドも最適なサイドバックを一人獲得するために£4000万か£5000万くらいかけるところから始めた方がいいのではないか。そして、その選手を7年ほど使い続けるんだ。その方が色んな選手を試すよりも最終的には良いと思う。


【シティとユナイテッドのサイドバック獲得に関する比較】

シティの場合

選手名 獲得した年 移籍金
カイル・ウォーカー 2017 £5000万
バンジャマン・メンディ 2017 £4900万
ダニーロ 2017 £2700万
オレクサンドル・ジンチェンコ 2016 £180万
  合計: £1億2780万

 

ユナイテッドの場合

選手名 獲得した年 移籍金
ディオゴ・ダロト 2018 £1900万
マッテオ・ダルミアン 2015 £1300万
ルーク・ショウ 2014 £3300万
マルコス・ロホ 2014 £1800万
デイリー・ブリント 2014 £1600万
  合計: £9900万

 

[シティもユナイテッドもサイドバックの補強に巨額の投資を行ってはいるのだが、選手一人あたりの獲得にかける金額という点では大きな差がある。もちろん、ここ2~3年ほどで移籍市場自体が大きく変化し、プレミアリーグのクラブが払う移籍金が一気に高騰したという背景もある。]