With Their Boots.

「成功したいからアカデミー廃止するわ」~西ロンドンの中小クラブの試み~(football.london)

ブレントフォードFCというチームをご存知でしょうか?設立は1889年と古いものの、戦っているのはイングランド2部チャンピオンシップ。1部リーグへの参戦経験すら希少な西ロンドンの中小クラブですが、非常に興味深い試みを行っているとfootball.londonが報じていましたのでざっくり訳しました。元記事はこちら


 

「もしもあなたがサービス業に携わる人を雇いたくなったら、どこで見つけますか?多くの人は最高級ホテルに行くでしょうか。しかし我々にはそれが出来ません。私達はガソリンスタンドに行くしかないのです。そして、あそこでも素晴らしいサービスを受けられるなら、ここでも良いんじゃないかって思うでしょう。私達は困難な状況においても私達が必要とするスキルを探し求めているのです」

 

ダイレクターのラスムス・アンカーセンは、ブレントフォードがチャンピオンシップに属するチームにおいて、ここ最近で最も印象的な選手発掘を行えている理由の一つを説明してくれた。

 

「私達は選手の伸びしろを見ます。潜在能力ですね。この選手は成長できるだろうか?パフォーマンスによって市場価値は上げられるだろうか、といったところです。スコット・ホーガン(2017年1月にアストンヴィラへ移籍)、アンドレ・グレイ(2015年8月にバーンリーへ移籍)、オリー・ワトキンス(2017年7月に加入。今季ここまで7ゴール)のように、プロクラブとしての環境が整っていないところから獲得した選手たちを見れば、我々はまあまあ上手くやっているのではないでしょうか。もし彼らがプロではなかった時代にここまでのレベルになっていなかったのならば、このクラブに来てから短期間のうちに大きく成長したということです」

 

ブレントフォードはこんな風にならざるを得ないクラブだ。エリートクラブではない彼らは、少なくともお金の面では不公平なこの世界で生き抜いていかねばならないのだ。チャンピオンシップにおいてすら、パラシュート・ペイメントによって降格クラブがかつて被っていたような経済的な不利を免れ、ウォルヴズのようにジョルジュ・メンデスの顧客の中から好きな選手を引っ張ってくるために数百万単位を費やしているチームがあるのだ。

 

痩せ型の体型にブロンドヘアーを束ねたアンカーセンは、まるでスカンジナビア出身のグラフィックデザイナーとして人々が思い描きそうな見た目をしている。作家業だけでなく、企業や彼が手掛ける数々のビジネスイベントでの発表者として活動していた時期もある。

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[ラスムス・アンカーセンは1983年生まれのデンマーク人。独特な選手査定方法で話題を呼んだFCミッティランの会長も務めている。]

 

しかし現在は、オーナーのマテュー・ベンハム、共同スポーティング・ダイレクターのフィル・ジャイルズなどと共に、フットボールリーグにおいて最も異端な経営アプローチを採っている。

 

「選手と契約するのは監督でもなければオーナーでもありません。クラブのみんなが行います。私は選手に対して、クラブが君を獲得したのであって特定の誰かではないんだと常に言っています。バーミンガムを見てください。たくさんの選手を獲得したのに、監督はたった4試合で解任。選手はこう思うでしょうね。『俺を獲ってくれたのは、あの監督だ。次の監督は俺を気に入ってくれるかな?』って。ブレントフォードでは誰か一人のスターが引っ張っていくことはありません。プロジェクトこそがスターなのです」

 

プロジェクトという言葉はフットボール界の人々の口からよく聞かれる言葉だが、その言葉が真に意味するところははっきりとしないことも多い。ブレントフォードにおいては、そのような印象は抱かないだろう。チャンピオンシップに属する小クラブの一つとして、彼らが行った挑戦は、最大限の利益を得るために、他の誰もがやってこなかったことを本質から考えることだった。

 

この理念に基づき、18カ月前(2016年5月)、彼らはアカデミーの廃止という非常にラディカルな方針を採った。費用は過剰なのにファーストチームに選手を送り出せていなかったことを考えれば理解できない話ではない。

 

ブレントフォードが活動する地区(ロンドン西部)には魅力的なクラブがたくさん存在するため、必要な素質を持った若い選手を引っ張ってくるのは難しい。そして、将来有望な若い才能を確保できたとしても、より大きな財布を持つ者によって引き抜かれてしまう。

 

そして、アカデミーを廃止する代わりに注目したのが、いわゆるBチームだ。リーグ戦では出場機会を得られないが、入念にアレンジされたフレンドリーマッチ(練習試合)に出場する。ブレントフォードは大きなクラブからリリースされた選手を探す。そういったビッグクラブは過ちを犯していると思いながら。

 

「私達はイングランドで最高の17歳や18歳を獲得することは出来ません」アンカーセンは言う。「でも、ビッグクラブで上手くやれなかった選手を獲得します。もしかしたら彼らは遅咲きなのかもしれないし、そういった選手を我々は育て上げているのです。この方針転換はブレントフォードの直近5年間で最大の成功だと思っています。全年齢対象のアカデミーを運営していた頃は莫大な費用が掛かっていましたが、ファーストチームに選手は送り出せず、利益も生まれませんでした。方針転換から最初の12カ月で7人の選手が(Bチームから)ファーストチームに上がってデビューしましたが、こっちの方が安上がりだし遥かに効率的です」

 

ブレントフォードが行っているものの中で他所のクラブと異なるオペレーションとしては、他にデータ分析の用い方が挙げられる。この業界においてよく言われることだが、最大の困難は分析に基づいたアプローチと伝統的な方法論を組み合わせることである。イングランドフットボール界において、客観と主観は水と油なのだ。

 

ブレントフォードのアプローチはその水と油を分けたままにするというものだった。

 

「こういったものは分けたままにすることが大事だと思います」とアンカーセンは語る。「試合をしっかり見るデータマンはいらないし、データをちゃんと見るスカウトもいりません。こういうことをごっちゃに扱うと、衝突が起こる可能性があります。ただ、中立の立場からそれらを調整する人は必要です」

 

その調整する人こそアンカーセンであり、(共同SDの)ジャイルズである。「私にとっては、それは主観と客観それぞれの情報のどこが鍵となるのか、双方の限界は何なのかを理解することです。出来る限り優れた絵を描くためにもこの情報をしっかりまとめ上げたいのです。フットボール人こそが選手を探し出し、かぎ分けられるという考えも明らかに存在します。非常に優れたスカウトには彼ら独自の伝手があって、私達はそれらを用いて仕事をします。一方で、客観的な方法も非常に大切です。それらを適切に使う心得があれば、の話ですが」

 

分析といった分野で一歩先んじるのは難しい。

 

「最近はxG(ゴール期待値)がBBCで使われる時代です」とアンカーセンは言った。「そういったものは5年前までアンダーグラウンドなものでした。昔よりもデータの扱いに関して賢くなったと思います。昔のように一方的な見方もしなくなりました」

 

客観的なデータを採用したとしても、新戦力の獲得においては経営的なリスクも生じる。そして、それらを最小化するために、ブレントフォードは比較的古風な方法論にも頼っている。獲得を検討している選手についての評判を探すのだ。

 

「私達は選手獲得に際して、多くの調査を行います」アンカーセンは説明する。「選手とサインする前に話すのはもちろんのこと、周囲の人間からの評価も得ようとします。なぜなら、こういった情報は非常に効果的ですし、より多くのことを我々に語ってくれるからです。もし、これから獲得しようとしている選手と話すか、彼とドレッシングルームを共にした3人の選手と話すかと問われたら、私は3人の選手と話しますよ。当人が面接をされていると気付かないような面接というのはとても効果的なもので、本当に聞きたいことを喋ってくれる可能性が高いのです。1年前に調査をした、ある選手がいました。私達は彼を気に入って、会いに行きましたが、そこでの評判はあまり良くなかった。練習に酔っ払った状態で来ることがあると言われたのです。ビルの中にテロリストは入れられません。ブレントフォードとは団結力を持ち、エゴの無い集団です。そういったものを穢すような存在は必要ありません」

 

選手がブレントフォードのドアを通ると、そこから本当の仕事が始まる。

 

アンカーセンにとっては「選手を見つけることは、ストーリーの半分に過ぎない」のだ。「私達は多くの時間とリソースを選手育成にも投じています。入団してから移籍するまでの各選手の伸びを測る方式が出来たら、私達はその指標で国内最高を目指したい。選手にはここにいないときの過ごし方、例えば睡眠とかそういったものについても教育します。財産を獲得したら、それを大事にして、出来るだけ早く大きくしたいじゃないですか。私達が掲げるビジネスモデルは、安く買って、育てて、高く売ることです。選手獲得だけでは道半ばに過ぎません」

 

ブレントフォードにとって、この業界で先行するための試みとは、ピッチ上での成功だけでなく、経営部門を幸せにし続けることでもある。彼らは毎シーズン、選手の移籍を通じて利益を挙げねばならず、これについては非常に良い仕事をやってきた。昨夏には、ハーリー・ディーン、ホタ、マキシム・コリンをバーミンガムに売り、1月にはホーガンがアストンヴィラへ移籍、昨年にはグレイとジェームズ・タルコフスキがバーンリーへ移った。

 

次なる動きは、コーチの開発だ。1月から動き出し、クラブのポテンシャルを最大限に活かすべく取り組んでいる。それに伴って起こることについてアンカーセンははっきりと言及しなかったが、それでも彼を責めることは出来ない。このアンフェアな業界で前へ進むのは、それだけハードなことなのだ。