With Their Boots.

ヨシュア・キミッヒのインタビュー(The Guardian)

23歳の若さでバイエルン・ミュンヘンとドイツ代表に欠かせない戦力となったヨシュア・キミッヒが、自身のキャリアで感じた苦しみやペップ・グアルディオラとの出会いについて語った記事を訳しました。16/17シーズンの終盤、ドルトムント戦終了直後にペップから受けた“公開説教”の真相についても語ってくれています。元記事はこちら


まったりとした日曜の朝8時前。場所はミュンヘンヨシュア・キミッヒは驚くほどに早く姿を見せた。インタビュー取材をするにあたって、欧州で最も優れた若手フットボーラーの一人が朝食を摂るより早い時間を指定してきたのは予想外だった。バイエルン・ミュンヘンとドイツ代表に所属するこのディフェンダーが流ちょうな英語を操ることにはほとんどショックを受けなかったのだが。弱冠23歳のキミッヒは、自身の輝かしい出世街道を精査することに対して驚くほど意欲的であった。

 

f:id:dodonn_0704:20180422203646j:plain

 

ドイツ代表を率いるヨアキム・レーヴ監督は、キミッヒを「過去10年間のうちに出会った才能の中で最高の一人」と評した。バイエルンブンデスリーガ優勝5回、1974年のW杯優勝メンバーでもあるポール・ブライトナーは先週、キミッヒとフィリップ・ラームを比較するお決まりの話をした。「彼(キミッヒ)は戦術、試合状況を理解し、リズムを変えるべきときを知っている。第二のラームになるために必要なものは全て備えている」とブライトナーは語った。

 

戦術面でもピッチを離れた状態においてもキミッヒの成熟っぷりは、将来のバイエルンとドイツ代表のキャプテンになるだろうという確かな予感を抱かせる。キミッヒは今度のW杯や火曜日に控えたセヴィージャとのチャンピオンズリーグ準々決勝ではなく、昨シーズン、カルロ・アンチェロッティ監督のもとでキャリアが停滞してしまったときにどう感じていたかを説明してくれた。

 

ペップ・グアルディオラバイエルンを率いていたときにはセントラル・ディフェンダーを、大会ベストイレブンに輝くことになるEURO2016ではライト・バックをやることによって、キミッヒは類まれな多才さを見せつけた。アンチェロッティ政権下でも順調なスタートを切った彼は、守備的MFのポジションで起用されながらシーズン最初の14試合で7ゴールを挙げた。しかし、グアルディオラよりも保守的なアンチェロッティは、キミッヒを数か月に渡ってベンチに控えさせた。

 

「若手選手にとって、優れた指導者と出会うのと同じくらい大切なことは、たくさんプレイすることです。そうやって成長していくんですから。(試合に出られない期間は)自分にとってとてもハードでした。みんなが話しかけてくれたし、助けてくれましたが、自分一人で対処しなくてはいけません。家族とガールフレンドの存在は大きかったですね。こういう人達、特に彼女とフットボールとは関係ないことについて話すことが重要でした。でも、心の中には常にフットボールがありました。」

 

f:id:dodonn_0704:20180423223644j:plain

[カルロ・アンチェロッティとキミッヒ]

 

「『自分に何が出来るのか?』『成長するにはどうすればいいのか?』と考えながら、練習時間を伸ばし、ハードに取り組んできました。そして家に帰ると『クソっ、何か変えなきゃ』って思ってしまうんです。こういう状態が3カ月以上続いて本当にキツかった。今は別の考え方をするようになりました。パワーが不足してるときは、それを受け入れるべきなんです。若いうちにこういう気付きを得られたのは良かったと思いますが、あんな苦しみはもう要りませんね。」

 

その後、アンチェロッティは選手からの信頼を失い、2017年の10月からはユップ・ハインケスバイエルンの監督となった。ハインケスが選手達と個別のミーティングを行った際に、キミッヒは最初の方に呼び出された選手のうちの一人だった。彼はバイエルンにとってキミッヒがどれほど重要かを強調した。この信頼感が2023年までの新契約にサインすることになる選手にとっては、とても大切なことだった。

 

キミッヒは当時を振り返って「ユップは僕が成長するために必要なことについて、いくつか話してくれました。成長させてあげたいという思いと信頼感を持っているコーチに師事することは、若手選手にとって本当に重要です。」と語った。

 

キミッヒはもっと昔に経験した難しい時期も振り返ってくれた。「14歳のときにシュツットガルトのアカデミーに入りました。大きな夢が叶った瞬間でしたが、孤独を感じていて、それはどんどん強くなってきました。18歳の僕はクラブのセカンドチームに上がりたかったのですが、クラブからは十分な強さが身についていないと言われてしまいました。」

 

キミッヒの決意は2013年にRBライプツィヒへのローン移籍志願によって露わになる。しかし、ライプツィヒでも最初のうちは苦労をしたという。ラルフ・ラングニックが監督をしていました。パーフェクトな移籍でしたね。でも、怪我をしてしまって…。ホテルに独りぼっちで周りに知っている人もいない状態でしたから本当に厳しかったです。でも大志を抱いてプレイするならタフにならなければいけません。僕は成長しました。これを乗り越えたことで前よりも強い人間になりました。」

 

キミッヒがライプツィヒで輝き始めると、グアルディオラはすぐに彼のポテンシャルに気付いた。2015年1月のことをキミッヒはこう振り返る。「契約しているエージェントが、僕を獲得したいクラブがあるって言ってきたんです。『どこ?』と尋ねたらFCバイエルン・ミュンヘンだと言うんです。僕は『冗談はよしてくれ』と言いました。だって、自分は2部リーグでプレイしていて、普通に考えてバイエルンはそういう選手を獲りませんから。信じられませんでしたね。バイエルンは世界中ほとんど全ての選手を獲得できますし、グアルディオラが自分を獲りたがっているなんて話を信じるのは難しいですよ。」

 

人の姿もまばらなカフェでキミッヒは笑みを浮かべながら初めてグアルディオラと会ったときのことを語った。「鼓動はとても速くて、特別な瞬間でした。僕は彼に『どうして自分なんですか?』と尋ねました。ペップは僕のプレイをどのように見ているか、どういう点を気に入っているかを話してくれました。彼は僕が技術的に成長していく過程を見てくれていました。そして、守備的MF以外にもプレイできるポジションがあると言われました。ペップは僕が19歳以下の欧州選手権に出ていたときにプレイを見ていたようで、僕の特長を把握したそうです。僕は思いました。『ワオ、この人は僕のこと、僕のプレイを完璧に分かってくれている』と。ペップは、僕にチャンスを与えたいとも言ってくれました。世界最高の選手達と競い合うことになる若手選手にとっては最高の言葉でした。」

 

では、グアルディオラはどのような方法でキミッヒの成長を助けたのだろうか。「色々なことがありました。ペップは僕に全く新しいスペースを見せてくれたんです。本当に大きく成長しました。彼が気にしているのは、ファーストタッチ、そしてボールを受ける前に何をすべきか分かっているか、です。選手達は味方がどこにいるかを分かっていなきゃいけません。だから、ペップは選手達にフィールド全体を把握してもらいたいんです。彼は何か気付いたときには、すぐに声を掛けます。素晴らしいフットボール観も備えていました。どんな相手に対してもマスタープランを持っていたんです。」

 

ペップと過ごした期間の終盤、2016年5月に行われたドルトムントとの試合(結果は0-0)でキミッヒは試合終了間際にセントラル・ディフェンスから中盤へポジションを変更させられた。終了を告げるホイッスルが鳴るや否や、グアルディオラはキミッヒに駆け寄っていった。会場では81000人、テレビ越しには何百万人が見ている前でグアルディオラは当時21歳の若者に激しい言葉を浴びせた。キミッヒを叱りつけているようにも見えたが、試合後にグアルディオラは「私は『君は世界最高のセンターバックのうちのひとりだ。全てを兼ね備えている』と言ったのです」と語った。

 

f:id:dodonn_0704:20180422203444j:plain

[キミッヒに熱く語り掛けるグアルディオラ]

 

キミッヒがもっと良くなるよう熱心な指導をしていたことは明らかだ。では、あの苛烈な瞬間、彼が実際に話していたことは何だったのだろうか。「僕はセンターバックとしてプレイしていて、試合終了5分前にシャビ・アロンソとの交代でメディ・ベナティアが入ってきました。ベナティアは最終ラインに入り、僕はシャビがやっていた中盤のポジションに行くことになりました。でも、そのときの僕はセンターバックでプレイしてるときと同じ考え方を続けてしまったんです。すごく深い位置を取っていましたから、メディと僕が同じポジションを担当しているみたいで。ペップは試合中から僕にポジションを上げるように叫んでいたんですが、僕は何故そんなことを言われているのか分かってませんでした。だから、彼は僕がフィールドを引き上げる前に、しっかりと考えを話してくれたんです。最初はびっくりしましたよ。でも、ペップのことを知っている人なら慣れっこです。ペップという人はすぐに話をしてくれます。成長させるためです。彼はその場で伝えたい人間なんです。おかしな光景にも見えたかもしれないけど、僕にとっては素晴らしいことでした。ペップが僕のことをどれだけ見ているか、どれだけ気にかけているかを示してくれたのですから。」

 

グアルディオラマンチェスターシティにもたらした影響はさらに凄いものだ。「ペップがいかにスペシャルかを表していますよ。プレミアリーグには日常的にタイトルを目指すクラブがたくさんあります。しかし、彼はチームを大きく成長させ、他のライバル達とは別次元の存在にしてしまいました。チャンピオンズリーグでだって、アウェイのバーゼル戦を4-0でものにしています。信じられませんよ。」とキミッヒは言った。

 

グアルディオラとキミッヒが再会するチャンスはチャンピオンズリーグの準決勝か決勝に残されている。(後日、マンチェスターシティは準々決勝でリヴァプールに敗れてしまった。)しかし、現時点ではキミッヒは自身を成長させることに集中している。現在の彼はバイエルンでもドイツ代表でもライト・バックとしての地位を確立している。

 

「お気に入りのポジションは守備的MFですが、どちらのチームでも同じポジションを任せられる機会を得ることができました。ドイツ代表では先のEUROから右のディフェンダーを担当していますが、3バックを採用するときはセンターバックをやることもあります。こういう状況で、クラブに戻ってミッドフィルダーをやるのは簡単なことではありません。リズムが掴めないときには自信も失いがちですしね。でも、どんなポジションをやるにせよ、自分のスタイルをしっかり出そうとはします。守るだけじゃなく、チャンスも作りたいし得点も決めたいんです。適切なバランスを見出さないといけません。そして、若い選手にとっては誰かをコピーするようなことはせず、自分自身であり続けることが大切です。」

 

少なくとも、ラームとの比較は鳴りを潜めている。キミッヒがその成熟ぶりと多才さでもって、未来の大物としての存在感を自らの力で発揮しているからだ。「僕は常に僕自身でありたいと思っていました。ラームのクローンでもラーム2世でもありません。もちろんフィリップは素晴らしい選手です。良くない試合をしてしまったときでも、彼は他の選手よりも優れていました。彼のパフォーマンスには確かなものがあり、それに負けないようにしたいとは思います。でも、自分自身のプレイをすべきです。世の中の人は過剰な比較をしなくなりました。それが僕にとってはとても良いことです。」

 

ピッチ外でも成長しようとしているキミッヒは、現在スペイン語を勉強中なのだという。「フリーな時間があったときに、成長するために何かできることは無いかなって考えたんです。勉強は大変ですが、新しい言語を学ぶことは完璧な答えでした。今は少しお休みしていますが、勉強は一年以上続けています。アウトゥーロ・ビダルとかスペイン語を話すチームメイトとも少し話せます。でも、パーフェクトには程遠いですよ。フットボールでも何でもそうです。僕はもっと成長できます。」