With Their Boots.

ノルベルト・エルガート(シャルケU-19監督)インタビュー(SKY)

20年にわたってシャルケの育成組織で働き続け、ノイアーエジル、ドラクスラー、サネなど今を時めく選手を育ててきたノルベルト・エルガート氏についての記事をざっくり訳しました。卒業後も変わらずに続いていく選手達との関係性から、彼の指導理論の一端が見えてきます。元記事はこちら


 

f:id:dodonn_0704:20180129171816j:plain

ノルベルト・エルガートはマヌエル・ノイアー、メズト・エジルユリアン・ドラクスラー、レロイ・サネらの師匠である。今記事では、彼にシャルケでの成功と、プレミアリーグを席捲する選手達について、彼らを誰よりもよく知る者の立場から評価を聞く。

 

 

 

その試合はイングランドフットボールにおいて最も重大なカードの一つである。クリスマス期間のアーセナルリヴァプールの試合が迫る中、セアド・コラシナツは一つの望みを抱いていた。ガナーズのDFは、かつてシャルケのユースチームで指導を受けたノルベルト・エルガートと彼の妻であるコニーを試合に招待した。

 

エルガートはこういった厚意に飽きることなどないが、何度も経験している。彼と妻のコニーは2013年にコパデルレイの決勝を観に行っているが、そのとき招待してくれたのは現在、コラシナツのチームメイトであるメズト・エジルだった。マンチェスターシティのレロイ・サネは頻繁に連絡をくれるし、リヴァプールジョエル・マティプはつい最近、パーソナルな感謝のメッセージを添えてサイン入りユニフォームを送ってくれた。

 

かつての教え子たちからエルガートに贈られる敬意はとてつもない。彼は単にフットボールをどうプレイすべきかを教えたのではない。フットボールをどう思考すべきかを教えたのだ。彼の指導は、より良い選手になるだけでなく、より良い人間になることを保証するものである。

 

「私は自分の仕事を単なるトレーナー以上のものだと考えています」エルガートはSky Sportsに語った。「私たち指導者は、心理学者や園芸家のようでなくてはなりません。若い苗木を預かり、それを育てなければならないのです。それはサッカーができるように準備させるだけではいけません。彼らの人生についての準備をさせ、サッカー選手以上の存在になれるよう手を貸します」

 

「我々は地球という社会に生きています。サッカーも大切ですが、他のことの方がもっと大切です。大金を稼ぐことは特権であり、ある種のステータスをもたらします。だからこそ、還元することが重要なのです。良いフットボーラーとしてだけでなく、良い大人としても称賛されるべきでしょう。両方を満たすことは可能な話です」

 

このような理念を踏まえれば、エルガートがシャルケのU-19チームで出会い、ともに成功してきた選手達についての評価を理解しやすくなる。2012年のU-19ブンデスリーガ決勝でバイエルンを倒したときのキャプテンだったコラシナツについて聞くと、エルガートは彼を「真の友人だ」と表現した。

 

2015年に同大会を制したチームの一員だったサネについても、その態度を賞賛しているし、マティプについてはプロ意識の高さを挙げていた。エジルは2006年に同大会を制しているが、彼への評価はどうだろうか?「彼は控えめで謙虚な子だった。そして、それが我々にとっては非常に重要なことだった。」エルガートは言う。「メズトは若者にしては少しシャイだったが、自身の能力に対しては揺るぎない自信を持っていました。彼は知性、ヴィジョン、認知、技術を備えた素晴らしい選手でした。常にピッチ上を把握し、全体図を素早く脳内に映し出すのです。また、メズトは性格も良かった。彼を誇りに思いますよ。自信溢れる人間ですが、決して傲慢にはなりませんでした」

 

f:id:dodonn_0704:20180129171737j:plain

 

 

「私達はテクニックだけではなく、王者としての品格を伝えようとしています。例えば、リスペクトや寛容さ、正直さ、忠誠心、そして特に誠実さですね」

 

2003年にブンデスリーガのユース大会が再編されて以来、エルガートとシャルケが記録した優勝回数3回を上回るクラブは存在しない。シャルケはユースレベルで成功しただけでなく、ファーストチームにも選手をしっかり供給している。では、その秘密は何だろうか?「秘密なんてありませんよ」エルガートは語る。「どこでも可能なことです。ただ、簡単じゃないですけどね。シャルケは素晴らしい伝統を備えていて、私達はそれを選手に伝えたい。しかし、それはその選手が優れていてこそ意味を為します。この考え方はどのクラブでも用いることができます。不可能なんてありえません。正しい判断をする必要があるだけです。良い選手は必要ですが、イングランドにもとても優れた選手がいますね。良い指導者も必要ですが、イングランドにも良いコーチがいます。大事なのは選手達をファーストチームに送り込むことだけでなく、スカッドに入れる以上の存在にすることです。そのためには、ハードに働く意思、そして長期間にわたってスマートに取り組むことが必要です。一晩で梯子を登り切るのは不可能です。本当に多くの若者達が1から10に飛び上がることを望んでいますが、一歩ずつでなければなりません」

 

「最近の社会では、ときに忍耐を忘れてしまうこともあるでしょう。若者だけではありませんが、本当に多くの人々が一夜にしてスーパースターになろうとしています。そんなことは普通には起こり得ません。成功には時間が必要です。2年間プレイしただけでトッププレイヤーになれる可能性なんてそうありません。物事は変わっていきますが、成功への法則は変わりません。選手達はエレベーターではなく階段を使わなくてはいけないのです」

 

エルガートも今や60歳。もしかしたら、若い選手達と強固な結びつきを持つという、彼にとって最高の能力にも陰りが見えるようになるかもしれない。何と言っても、父の立場というよりは、今や祖父みたいな立ち位置になっているのだ。しかし、人間への興味は衰えることはなく、彼は適応し続けている。

 

エルガートは、かつて彼にとっての師匠格であり、ドイツでは選手のやる気を引き出すことで高名な指導者であるニクラウス・B・エンケルマンと口論になったことがある。「彼は私の髪を見て、どれくらい長い間その髪型をしているのかと聞いてきた。私が何年もこのままだと答えると、今度は気に入っているのかと聞いてきた。私は、そうだと答えた。すると、彼は世の中にあるもので変化しないものなんてあるのかと問うてきたんです」

 

パブリックな指導の場で指摘されたことで、当時のエルガートは良い思いをしなかった。しかし、それは明確なメッセージだったのだ。同じ場所に立ち止まる人は、学ばない人である。「最初は彼に対して怒っていたけど、そのことに気付きました。彼は的を射ていたんです。」とはエルガートの弁である。ほんの些細なことに思われるような瞬間が、物凄い効果をもたらしたのだ。「まぁ、髪型は変えてないですけどね」そう付け加えてエルガートは笑った。

 

「年を取ってからは、常に進歩することを忘れないのが大切です。学び続け、より良い人間になろうとし続けなければならないのです。進歩も改善もしない者に、チャンスなど来ません。私は一生を懸けた学び人で、同じことをユースの子供達にも伝えています。今日は昨日より良くなるように、明日は今日より良くなるようにってね。ただ、仕事自体はそれほど大きくは変わっていません。我々はいつの時代も人間を相手にしなくてはなりません。このような考えは、我々の仕事の中核をなしています。世界は変化し、それらを取り巻く環境も変わりました。しかし、人間はそれほど変わっていませんから、私の仕事もそこまで大きくは変わっていないのです。私が選手達との間に持つパーソナルな関係は常に良好です」

 

では、エルガートはどれくらい長くこの役割を続けるつもりなのだろうか?約1年前、彼はこの職を離れる決断をしたが、留まるように説得を受けた。また、彼がファーストチームのコーチになるのを断ったのも一度ではない。シニアレベル(トップチーム、ファーストチーム)のフットボールはユースレベルよりもきらびやかなものだが、エルガートは違う道を選んだ。

 

「私が現在、関わっている選手くらいの年齢だと、大人の選手達よりも精神面に影響を与えられる可能性が高い。大人の潜在意識というものは、より安定していて、影響を与えることが簡単ではないのです。私にとっては、若者を教え、サッカーと同様に彼らの人生に待ち受ける物事の準備をさせてあげる方が大きな意味を持っています。クラブからファーストチームでの仕事を打診されても断ってきたことは、みんなが知っています。私は現在の仕事に対して、より大きなやりがいを感じているのです。これが私の生き方であり、誰しもが同じではありません。20年も一つの仕事をし続け、その中で何度もオファーを断ってきたのなら、その仕事を愛しているというしかありませんね」

 

彼の下で育った多くの選手達同様に、彼の仕事もまた彼を愛しているようだ。

 

Norbert Elgert's seven pillars of success.

ノルベルト・エルガート流、成功への7つの柱。

  • 時間とスペースのプレッシャーがある中での技術
  • 戦術、知性、認知
  • 身体能力、特にスピード
  • 精神的な素早さと強さ
  • チームの一部としてプレイできること
  • プロとしてのライフスタイル、栄養学、暮らし
  • 他者にとって良き見本であること